宇野重規「民主主義にはそもそも論が必要だ」 「デモクラシー」はいつから肯定的になったのか

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宇野重規(うの・しげき)/1967年、東京都生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院法学政治学研究科博士課程修了。博士(法学)。現在、東京大学社会科学研究所教授。専攻は政治思想史、政治哲学。主な著書に『政治哲学へ 現代フランスとの対話』(2004年渋沢・クローデル賞LVJ特別賞受賞)、『トクヴィル 平等と不平等の理論家』(講談社学術文庫、2007年サントリー学芸賞受賞)などがある(撮影:尾形文繁)

――楽観的というと?

民主主義への不信は募っているけれど、日本でも新しい民主主義の種は芽生えてきていると思っていたんです。隠岐にある海士町では、離島であるにもかかわらず、昔からの住民が立ち上がり、Iターンで来た若い人を受け入れて新しい地域をつくっている。三陸は「NPO不毛の地」と言われていたのに、震災後に地元に戻ってきた若い人を中心としたNPOが育ちつつある。

東京の永田町や霞が関を見ていると、日本の政治は変わらないように思えてくるんですが、地域を見ると確実に変わっている。だからこれからの時代は、変革は地域から始まり、最後に東京が変わる。東京よりも地域のほうが進んでいる。割とそういう気持ちで書いた本なんですね。

ところが、『民主主義とは何か』の冒頭でも書いたように、2016年あたりから、イギリスのEU離脱やドナルド・トランプが勝ったアメリカ大統領選をはじめとして、世界各地でポピュリズムと呼べるような現象が相次いで起こり、独裁的手法が目立つ指導者も多くなりました。

日本の意思決定層ですら抱く民主主義への疑問

以前、企業や官庁の「エラい人」から、こんな言葉を聞いたことがあります。「中国を見ていると、民主的な体制とは言えないが、それだけに決断が早い。決まるとすぐ実行される。その中国が経済的にもこれだけ成功している以上、もはや民主主義を擁護するだけの自信が自分にはない」と。日本社会で責任ある地位にいる人でさえ、民主主義に疑問を抱いているわけです。

あるいは安倍政権の時代に、モリカケ問題を含めて、民主主義の行き詰まりを示すような問題が噴出しました。「忖度」なんていう言葉が横行するのも、民主主義の危機の兆候でしょう。

そんな具合に、ここ数年で、世界でも日本でも民主主義が大変な危機に直面していることが肌身で感じられるようになり、以前のような楽観視はできないという思いが強まったんです。

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