宇野重規「民主主義にはそもそも論が必要だ」 「デモクラシー」はいつから肯定的になったのか

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――その危機意識から書いたのが『民主主義とは何か』なんですね。

はい。こうなったら、民主主義とはそもそも何なのか、という原則論に立ち戻ろう、と。さまざまな議論を見るにつけ、いろんな人が百人百様、ずいぶん違う民主主義の理解を念頭に置いている。激しく論争しているように見えて、全然かみ合っていない議論も散々見てきました。だったら、ここは1つ腰を据えて「民主主義とは何か」というところからスタートして、正統派中の正統派、まさに教科書を書くような心づもりで、古代ギリシャから徹底的に論じてみようと考えたんです。

プラトン・バイアスで古代ギリシャを見てはいけない

――実際に読んでみて、古代ギリシャの民主政のイメージが大きく変わりました。高校世界史や倫理の教科書などでは、古代アテネで民主政は発展したけれど、ペロポネソス戦争でスパルタに敗れた後は、デマゴーグ(衆愚政治家)が幅を効かせて衰退していったというふうに書かれています。でも、そうではなく、一時的に迷走はしたけれど、アテネの民主主義は進化したということが書かれていて驚きました。

恥ずかしながら、私自身も大学の授業などではそういうストーリーで話していたんです。ところがこの機会に、古代ギリシャ史家の橋場弦先生が書いた『民主主義の源流』(講談社学術文庫)を読み直してみると、いわゆる全盛期を過ぎたとされている時代でも、アテネの民主主義はしぶとく持ち直していることが書かれている。

政治参加している市民の数は減っていないし、現代の違憲立法審査権のように、デマゴーグが民会で無責任な発言をして国を誤らせたときは、事後的にそれを処罰するといった仕組みまで整備されている。むしろ制度的に進化しているんですよね。そういう話を読んで、「あれ?」と。自分は毒されていたと反省しました。

哲学でも、プラトンやアリストテレスは民主主義に対して批判的ですよね。その影響が大きいので、古代アテネの民主政というと、どうしてもプラトンやアリストテレスのバイアスが入ってしまう。でも、実態はだいぶ違っていたわけですね。

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