アビガンが承認下りないのも不思議でない根拠 期待されたコロナ治療薬候補の知られざる実力

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並行して進められてきた海外における試験の結果は?(写真:Akio Kon/Bloomberg)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬候補として一時注目を集めたのが富士フイルムの子会社・富士フイルム富山化学が開発した抗インフルエンザ薬のファビピラビル、製品名「アビガン」。

2月10日公開の「アビガンが今になっても承認下りない根本理由」に続く後編として、期待されながらもいまだ承認には至っていないアビガンの真実に迫る。

アビガンには付き物の「催奇形性」という問題

有効性評価に医師によるバイアスが入る可能性があることに加えて、今回専門家がこのデータのみで承認に同意しなかったと思われる原因はほかにも考えられる。

薬の服用は得られると思われる利益と想定されるリスクとのバランスが重要となる。やや極端な例を挙げれば、治療をしなければ死に至る可能性が高い病気に対して、服用すれば確実に1年以上は生存できるものの、服用したほとんどの人がつねに微熱や下痢に悩まされるという薬であれば、おそらく多くの患者は微熱をこらえても薬を服用することを選択するし、医師もそのほうが妥当だと判断する。

逆に命を落とすことはほとんどない病気で、苦痛な症状は時々出る程度。これに対して服用すれば症状が和らぐことになるものの、服用した患者の10人に1人に後遺症が残る副作用が出る薬があるとしたら、多くの患者は服用したがらないのではないだろうか?

実は今回のアビガンの新型コロナへの適応拡大を承認するか否かの議論には、この薬が持つ潜在的なリスクが相当程度影響していると推察される。そのリスクとは抗インフルエンザ薬としての承認時に提出された動物実験データで明らかになった「催奇形性」。端的に言えば、生殖活動期の男女や妊婦が服用した際などに生まれてくる子どもに奇形が生じる危険性である。

アビガンの動物実験ではサル、マウス、ラット、ウサギの4種類の動物で催奇形性が認められており、ラットでは初期の受精卵(初期胚)が死滅したことも報告されている。もちろん動物実験の結果と同様のことがそのままヒトで起こるとは限らない。しかし、ヒトと同じ霊長類のサルも含む4種類の動物すべてで催奇形性が確認される以上、ヒトでも十分起こりうると考えるのが妥当である。

実際、アビガンの抗インフルエンザ薬としての承認時はこの点が最大の論点となった。企業側は季節性インフルエンザの治療薬として承認申請を求めていたが、シーズンごとに確定患者だけで数十万人規模となる季節性インフルエンザに催奇形性があるアビガンを承認することに厚労省側が難色を示したのだ。

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