アビガンが承認下りないのも不思議でない根拠 期待されたコロナ治療薬候補の知られざる実力

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ただ、新型インフルエンザのパンデミック後のことで、その当時まで承認されていた抗インフルエンザ薬とは異なる新しい作用の仕方を示すということもあり、苦肉の策として「新型または再興型インフルエンザウイルス感染症(ただし、ほかの抗インフルエンザウイルス薬が無効または効果不十分なものに限る)」と極めて限定された適応で承認された。

しかも、新型インフルエンザのパンデミック発生時に国が出荷の可否を決めるという、これまた前代未聞の条件が付き、今回の新型コロナパンデミック以前は新型インフルエンザ対策用の国の備蓄のため以外では製造されておらず、一般の医療機関には在庫すらなかったほどだ。

さらに新型インフルエンザでの流通であっても厳格管理が前提となっており、妊婦や妊娠の可能性のある女性への投与の回避のほか、妊娠するあるいはさせる可能性がある男女では投与中および投与後7日間の避妊の徹底が求められている。

つまるところ新型コロナの症状改善までの期間は約3日短縮できるかもしれないが、そこにはバイアスが含まれている可能性があり、一方で副作用により次世代にまでわたって害を及ぼす可能性があるというのが今のアビガンの置かれた現実である。そうである以上、審査側として慎重になるのは当然と言えるだろう。

「審査機関に提示して合意を得たもの」?

今回の継続審議が明らかになった時点で、単盲検試験という手法について富士フイルム富山化学が「審査機関に提示して合意を得たもの」と、やや恨みがましいとも解釈できるコメントをしていることが一部で報じられている。

審査機関とは、製薬企業が新薬の製造承認を申請した際に提出したデータの1次的審査をする厚労省所管の独立行政法人「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」のことである。ここでの審査が審査報告書としてまとめられて外部の専門家で構成される厚労省薬食審に提出され、最終的な承認可否が判断される。今回のアビガンの場合、この最終段階の薬食審で物言いがつき、承認されないままになっている。

PMDAは新薬候補の1次的な審査にとどまらず、製薬企業が新薬候補の動物実験やヒトでの臨床試験を行う際の法令への適合や科学的妥当性などを助言する事前相談業務も行っている。今回のような緊急性の高い医薬品の開発に際して製薬企業はほぼ確実にPMDAに事前相談するはずであり、富士フイルム富山化学のコメントにあるPMDAがアビガンの臨床試験を単盲検試験で行うことに同意していたのは事前相談でのことだろう。

次ページPMDAはなぜ単盲検の実施に同意したのか?
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