アビガンが承認下りないのも不思議でない根拠 期待されたコロナ治療薬候補の知られざる実力

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ネット上では「事前に臨床試験のやり方に同意していながら、お役所は富士フイルムに嫌がらせをしている」などの陰謀論めいた言説を目にすることもあるが、PMDAが単盲検試験の実施に同意していたのは承認審査を遅らせるためではなく、逆にアビガンの新薬承認をスピーディーに行う意図があったと考えるほうが妥当だ。そう考えられるのは主に3つの理由からだ。

1つ目には感染症の場合、ほかの病気と違って新薬候補の臨床試験実施に独特の難しさがあるからだ。例えば糖尿病や高血圧のような病気で新薬候補の臨床試験を行う場合、参加患者の確保は比較的容易である。これらの病気ではつねに一定数の患者が医療機関を継続的に受診しているため、参加打診をする患者を見つけやすい。

ところが感染症はいつどこで患者が発生するかはまったく不明だ。しかも、感染症の蔓延は今回のように社会全体を混乱させるので、感染者の発生を防止しようとするさまざまな対策が動いている。この結果、構造的に臨床試験実施の前提になる参加患者の確保が容易ではない。

モグラたたきに例えると、糖尿病や高血圧の新薬候補の臨床試験参加者確保は、つねにどの穴からどのタイミングでモグラが出てくるかがわかっているモグラたたき、感染症でのそれはどの穴からどのタイミングでモグラが出てくるかはわからないモグラたたきである。

命を落とす可能性があるのに参加できるか

2つ目にはまさに命を落とす可能性がある感染症にかかっている患者が、自分にどんな治療を行われているかがわからない二重盲検試験への参加を求められれば参加を躊躇する可能性がある。それでは臨床試験そのものが成り立たない。

3つ目には、中等症から数時間で一気に重症化することがある新型コロナの特性を考えると、臨床試験に参加する医師側も単盲検試験のほうが好都合という可能性もある。というのも、臨床試験に参加中の患者で急速な重症化が起きた場合、医師は最短で最適な対処法を模索するため、患者にアビガンとプラセボのどちらが投与されていたかを知る必要がある。

この際に二重盲検試験ならば、医師は容体が急変している患者を前に前述のコントローラーに何とかアクセスして確認するというまどろっこしいプロセスが必要になる。これに対し単盲検試験ならば、その場で迅速に対処方針を決定できる。

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