アビガンが承認下りないのも不思議でない根拠 期待されたコロナ治療薬候補の知られざる実力

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このような3つのハードルを考え、臨床試験の早期・円滑な実施を念頭にPMDAが富士フイルム富山化学側の提示した単盲検試験に同意したこと自体、何ら不思議はない。また、PMDAに対する事前相談の段階で今回最終判断のために待っているアメリカとクウェートでの二重盲検試験の計画は富士フイルム富山化学から通知されていたはずである(していないということはまずありえない)。

このためPMDA側も単盲検試験という、とりあえず走り出しやすいスキームで先行し、そこで極めて良好な結果が得られた場合はその段階で、そうでなかった場合は二重盲検試験の結果を待って薬食審が適切に判断してくれるだろうという腹積もりがあったと思われる。

そして最終的に確定した単盲検試験結果は約3日短縮という微妙な差だったため、バイアス混入の是非が真剣味を帯びてきたと考えられる。その意味ではPMDAが単盲検試験という手法に事前に同意したことと、今回の薬食審での承認先送りはまったく矛盾しない。

すでに一部が明らかになった海外での臨床試験結果

いずれにせよアメリカ、クウェートでの臨床試験の結果次第なわけだが、実はクウェートでの二重盲検試験は終了し、1月27日に結果の一部が明らかになった。試験は富士フイルム側が中国、ロシアを除くアビガンの製造販売ライセンスを供与しているインドの製薬大手ドクター・レディーズ・ラボラトリーズが実施したものだ。

試験では中等症から重症で入院中の新型コロナ患者353人を対象として症状改善までの時間を評価したが、全体では症状改善までの期間が、アビガンを投与されたグループとプラセボを投与されたグループでは統計学的有意差が認められなかった、ありていに言えばアビガンの有効性は証明できなかった。

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ただ、参加患者をよりリスクの低い患者181人のみに絞って解析すると、アビガンを投与されたグループではプラセボを投与されたグループに比べて退院までの期間が3日短縮し、この差では統計学的に有意な差が認められたという。

やや突っ込んで解釈を示すならば、クウェートでの二重盲検試験では、よりリスクの低い患者、おそらく中等症の患者で、医師のバイアスが入りやすい「退院」という基準で3日間短縮効果が認められたということ。率直に言ってかなり微妙な結果と言える。この点を併せて見ても、現時点で厚労省の薬食審が承認を先送りしていることはとくに不自然なことではなく、この薬の偽らざる実力の結果である。

残るはやはりドクター・レディーズ・ラボラトリーズが、アメリカで軽症から中等症者を対象に症状改善や入院・ICU入りリスクの軽減を評価する目的で行っている二重盲検試験の結果がどうなるかだ。もっとも、新型コロナの軽症者はほぼ無治療でも回復するのが常識で、この試験で劇的な効果は示せないのではないかとの見方もある。

村上 和巳 ジャーナリスト

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むらかみ かずみ / Kazumi Murakami

1969年宮城県生まれ。中央大学理工学部卒業後、薬業時報社(現・じほう)に入社し、学術、医薬産業担当記者に。2001年からフリージャーナリストとして医療、災害・防災、国際紛争の3領域を柱とし、『週刊エコノミスト』、講談社Web「現代ビジネス」、毎日新聞「医療プレミア」、『Forbes JAPAN』、『旬刊医薬経済』、「QLife」、「m3.com」など一般誌・専門誌の双方、ネットで執筆活動を行う。2007~2008年、「オーマイニュース日本版」デスク。一般社団法人メディカルジャーナリズム勉強会運営委員(ボランティア)。著書に『化学兵器の全貌』(三修社)、『ポツダム看護婦(電子書籍)』(アドレナライズ)など、共著に『がんは薬で治る』(毎日新聞出版)、『震災以降』(三一書房)など。

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