国際機関である世界保健機関(WHO)も、国家安全保障の観点から感染症危機を捉え、人為的な感染症危機にも対応する政策立案チーム。医療・公衆衛生機関と司法警察の連携促進や、大量破壊兵器対策について他機関と連携して、政策を推進するのがその役割。具体的には、各国保健省や外務省・軍、国連軍縮部、インターポールと連携している。
アメリカが国家安全保障会議を中心とした感染症危機管理政策の立て直しを図る中、日本政府も今年、感染症危機管理の司令塔となる「感染症危機対策官」を創設するとの一部報道がある。それによれば、同機関は、政府の危機管理を統括する内閣危機管理監の下に設置され、各省を束ねる役割を任される。
感染症危機対策のカギは「横の連携」
危機管理と国家安全保障は本質的に異なるが、交錯する部分も多く、感染症危機管理政策がカバーする領域はその典型だ。国家の重大事案に対して内閣危機管理監と国家安全保障局長が相互に連携するように、新設の感染症危機対策官も、感染症危機管理のみならず国家安全保障についても精通し、国家安全保障局長と連携することが求められる。
例えば、感染症危機への対応は、平時から世界各地の新興再興感染症の発生や、テロ組織の動向を監視しつつ、日本に脅威が及ばないよう、同盟国・友好国と連携して外交活動を展開していく必要があるという点で、両者の連携が必要だろう。また、未知の感染症が発生し、その原因が明らかでない場合、バイオテロや新たな感染症が発生した可能性もありうる。
その原因が明らかになるまでは、人為的な可能性も念頭に置かなければならないし、自然発生的なものであると明らかになったとしても、病原体の窃取を防ぐなど、公衆衛生当局と警察などが引き続き連携することが必要となる。
今後日本は、感染症危機に対してどのような政策を展開すべきだろうか。まずは、日本の国家安全保障戦略の中で、感染症危機を明確に国家安全保障上の脅威として位置付け、政府各部が政策を実行する基盤を整えるべきだ(同戦略は、2013年に安倍政権の下で初めて策定されたが、現在改定作業が進められているという)。
その上で、新設の「感染症危機対策官」と国家安全保障局長のリーダーシップの下、感染症危機に対応する省庁間連携体制を平時から構築することが望まれる。具体的には、感染症危機管理オペレーション・感染症インテリジェンスなどを行う厚生労働省、国際保健外交などを行う外務省、ダイヤモンドプリンセス号事案でも活躍した対特殊武器衛生隊などを擁する防衛省・自衛隊、テロ対策を行う警察庁、生物剤に関する輸出管理を行う経済産業省などによる連携だ。
現時点の同戦略は、人為的な感染症危機については、「核・生物・化学(NBC)兵器等の大量破壊兵器、及びそれらの運搬手段になり得る弾道ミサイルなどの移転・拡散・性能向上に係る問題」として、「大量破壊兵器等の拡散の脅威」の項目で述べている。
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