日本の「感染症危機政策」に欠けている視点 感染症を「区別」するのは時代錯誤である

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日本の感染症危機対策に必要なものとは(写真:REUTERS/Kim Kyung-Hoon)

新型コロナウイルスの感染者が国内で発生してから1年が過ぎた。このわずかな期間に水際対策からウイルスに関する情報の共有、ワクチンの開発・生産まで、感染症の危機管理がいかに国を守る、あるいは、発展させるうえで重要か、誰もが痛感しただろう。本連載では感染症危機に関する国家安全保障や危機管理の側面からの考え方や、感染症危機をめぐる国際政治について紹介していく。(前編はこちら

バイデン政権で復活した「部署」

「あの部署が復活するらしい」。新型コロナ危機発生から1年が経過した2021年初頭、感染症危機管理の専門家の間でちょっとした話題となったことがある。

ホワイトハウスのスタッフが執務するアイゼンハワー行政府ビルの一室にある「国家安全保障会議 大量破壊兵器と不拡散局 国際健康安全保障と生物防衛部(グローバルヘルスセキュリティとバイオディフェンス)」。トランプ政権下で“休眠”状態となっていたこの部署が、1月20日に発足したバイデン政権で復活したのだ。

同部署は2014年に西アフリカを震源地とするエボラ出血熱の世界的拡散を経験したオバマ政権が、アメリカの感染症危機管理を統括するために設立したが、2018年、国家安全保障会議の組織改変という理由で、同部署を率いていたジーマー海軍少将が突如退任し、同部署自体も解散していた。

今回トップに就いたのはオバマ政権下でも同部署を統括し、パンデミック対策の戦略策定を担ったベス・キャメロン氏。過去に国務省や国防省での経験もあり、感染症に関する危機管理と、国家安全保障の双方に精通する生物学者の同氏は、アメリカ政府の新型コロナ危機対応を含む感染症危機管理政策全般の立て直しを期待されている。バイデン政権は、発足の翌21日に、パンデミック対策の国家戦略を早速発表した。

ドイツも、国家安全保障の観点から感染症危機管理を捉えている。ドイツ連邦保健省下のロベルト・コッホ研究所(日本の国立感染症研究所に相当)は、自然発生的な感染症への対応は言うに及ばず、生物テロ対策についても司法当局や防衛当局と連携し、重要な役割を果たしている。

例えば、感染症危機に対する政府の危機管理オペレーション訓練の実施や、2018年にドイツ国内で発生した生物テロ未遂事件への対応などだ。もちろん、新型コロナ危機への対応でも中核的な役割を果たしている。

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