「まずは現場」大企業ほど見逃す「経営の本質」 「現場」が元気になれば、「企業」は必ず強くなる

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野中:私自身は中小企業についてあまり研究してこなかったのですが、ここ20年近く続けている雑誌の連載の取材ではよく訪れています。

遠藤:どこか面白い企業はありましたか?

4000枚も焼いて「世界一のトースト」が誕生した

野中:最近、東証マザーズに上場した家電ベンチャーの「バルミューダ」は面白かった。もう4年ほど前ですが、「大ヒットした2万円を超える高価なトースターがいかに生まれたか」というプロセスを取材したんです。

その開発のきっかけが面白くて、あるとき、オフィス近くにある公園で、全社員が集まり、バーベキュー大会をしていたそうなんです。トースターの製品化は決まっていたそうですが、中身もコンセプトも、まったく未定でした

遠藤:まったく何も決まっていなかったのですか?

野中:そうなんです。その日はあいにく土砂降りだったのですが、ある社員が食パンを持ってきた。それを炭火で焼くと、表面はカリッと焼け、なかは水分が十分に残るトーストがたまたま出来上がり、その味がとてもおいしかったそうなんです。

プロジェクトリーダーでもある社長は「この味を再現しよう」と決め、コンセプトも決めた「世界一のトースト」です。

遠藤功(えんどう いさお)/シナ・コーポレーション代表取締役。早稲田大学商学部卒業、アメリカ・ボストンカレッジ経営学修士(MBA)。三菱電機、複数の外資系戦略コンサルティング会社を経て現職。2005~2016年早稲田大学ビジネススクール教授。2020年6月末にローランド・ベルガー日本法人会長を退任。7月より「無所属」の独立コンサルタントとして活動。良品計画やSOMPOホールディングスの社外取締役を務める。主な著作に『現場力を鍛える』『見える化』などがある(撮影:梅谷秀司)

遠藤:「トースター」ではなく「トースト」だと。

野中:そうなんです。「世界一のトースト」をみんなに食べてもらおうと、「体験」を重視したんです。

それから試行錯誤を繰り返し、トーストを4000枚も焼いて、いちばんおいしい焼き方のアルゴリズムを突き止めた。やはり水分がカギを握っていた。そこで、焼く前に小さなカップで水分を足すようにした、どこにもないトースターを開発して売り出したら大ヒットです。

遠藤:大企業だったら、そんな開発のやり方はとらないでしょう。

野中:そうでしょう。「トースターなんて枯れた市場」だと勝手に決めつけ、そこでイノベーションを興そうなんて思いもしないだから負けるんですよ。

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