「まずは現場」大企業ほど見逃す「経営の本質」 「現場」が元気になれば、「企業」は必ず強くなる
野中:私自身は中小企業についてあまり研究してこなかったのですが、ここ20年近く続けている雑誌の連載の取材ではよく訪れています。
遠藤:どこか面白い企業はありましたか?
4000枚も焼いて「世界一のトースト」が誕生した
野中:最近、東証マザーズに上場した家電ベンチャーの「バルミューダ」は面白かった。もう4年ほど前ですが、「大ヒットした2万円を超える高価なトースターがいかに生まれたか」というプロセスを取材したんです。
その開発のきっかけが面白くて、あるとき、オフィス近くにある公園で、全社員が集まり、バーベキュー大会をしていたそうなんです。トースターの製品化は決まっていたそうですが、中身もコンセプトも、まったく未定でした。
遠藤:まったく何も決まっていなかったのですか?
野中:そうなんです。その日はあいにく土砂降りだったのですが、ある社員が食パンを持ってきた。それを炭火で焼くと、表面はカリッと焼け、なかは水分が十分に残るトーストがたまたま出来上がり、その味がとてもおいしかったそうなんです。
プロジェクトリーダーでもある社長は「この味を再現しよう」と決め、コンセプトも決めた。「世界一のトースト」です。
遠藤:「トースター」ではなく「トースト」だと。
野中:そうなんです。「世界一のトースト」をみんなに食べてもらおうと、「体験」を重視したんです。
それから試行錯誤を繰り返し、トーストを4000枚も焼いて、いちばんおいしい焼き方のアルゴリズムを突き止めた。やはり水分がカギを握っていた。そこで、焼く前に小さなカップで水分を足すようにした、どこにもないトースターを開発して売り出したら大ヒットです。
遠藤:大企業だったら、そんな開発のやり方はとらないでしょう。
野中:そうでしょう。「トースターなんて枯れた市場」だと勝手に決めつけ、そこでイノベーションを興そうなんて思いもしない。だから負けるんですよ。