「まずは現場」大企業ほど見逃す「経営の本質」 「現場」が元気になれば、「企業」は必ず強くなる

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野中:そういうことですね。

遠藤:そのソシオークは、現社長のお母さまがつくった会社で、もともとは小さなお弁当屋さんでした。とにかくお客様に「おいしいものを食べてほしい」という創業者の強い思いがあった。

その思いがいまだに現場に浸透しているのです。「みんなが喜んで食べてくれる給食を提供しよう」と。

でも、以前は経営や運営のやり方がうまく回っていなかった。会社の理念に共感した私は、「現場に火をつければ、この会社は絶対によくなる」と思いました。

中小企業は「現場力重視」が浸透しやすい

遠藤:実際、おいしい給食をつくり続ける一方で、「こういう無駄をなくしたら、お金が浮く」「こんな工夫をしたら、仕事の効率が上がる」「こんなサービスを提供したら、お客さんは喜んでくれる」という現場からの改善提案をたくさん集め、1つひとつ実現していったら、みなさんの目の色が変わり始め、どんどん元気になっていったのです。

野中郁次郎(のなか いくじろう)/一橋大学名誉教授。1935年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造勤務の後、カリフォルニア大学(バークレー校)経営大学院にてPh.D.取得。南山大学、防衛大学校、一橋大学、北陸先端科学技術大学院大学各教授を歴任。日本学士院会員。知識創造理論を世界に広めたナレッジマネジメントの権威。主な著作に『知識創造企業』『失敗の本質』などがある(撮影:梅谷秀司)

野中:遠藤さんが偉いのは、現場にまで入り込んで、しつこくミクロを追求していることですね。遠藤さんご自身に強烈な「現場力」があるのでしょうね。

ところで、その現場力といえば、僕の所属する一橋大学ビジネススクールの1期生のアメリカ人が、最近、在日米軍の空軍のナンバー2になりました。

彼が勤務している東京の横田基地で一度、ディナーを食べたのですが、そのときに同席していた日本の航空自衛隊の方が、航空自衛隊では、遠藤さんの著書『新幹線お掃除の天使たち』で取り上げたテッセイなど民間企業から多くを学んでいるということでした。

遠藤:本当ですか。それはうれしいですね。同書で取り上げた、東京駅に到着した新幹線内の掃除をごく短時間で行うテッセイという会社は、「ハーバード・ビジネススクール」のケースにもなっていますからね。

野中:実は、昨年の7月から私は中小企業大学校の総長を仰せつかっています。独立行政法人中小企業基盤整備機構内にある国の教育機関です。

遠藤:それは存じ上げませんでした。私も大企業から中堅企業、中小企業まで、すべてコンサルしてきましたが、正直、大企業は動きが鈍い。中堅・中小企業のほうが反応が速く、実に面白い。「現場力重視」という私の考えが、すごく浸透しやすいのです。

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