移民700人放置「トランプの壁」が招いた惨状 今も親と連絡が取れない子どもが666人いる

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バイデン氏は就任後すぐに壁建設を止め、予算を国境施設の探知能力強化などに振り向ける方針だ。ワシントンポストが米陸軍工兵隊の試算として報じたところによると、就任直後に建設を止めれば、26億ドル(約2700億円)分節約できるという。しかし、どこにもつながっていないままの壁の「断片」が、残骸として各地に残ることになる。

バイデン氏の公約にはほかにも、移民政策の「巻き戻し」がずらりと並ぶ。

トランプ政権が廃止を目指してきた、子ども時代にアメリカに連れて来られた移民の救済制度(DACA)は継続し、トランプ政権が激減させた難民の受け入れ数の上限を大幅に増やし、イスラム教徒が多い国からの入国規制も撤廃する。約1100万人とされる正規の書類を持たない移民が市民権を取得できる道筋をつくる考えも示している。

移民が再び大挙して訪れる可能性も

ただ、これまでトランプ政権の排除策で躊躇してきた人たちが、バイデン政権に期待して大挙して押し寄せる「移民危機」の再来を懸念する声もある。

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治安悪化で大勢の移民が逃れてきた中米はコロナ禍と経済苦境で疲弊しているうえ、11月には二つの大型ハリケーンが直撃し、甚大な被害を受けた。アメリカ国際開発庁の12月11日付のまとめによると、グアテマラやホンジュラスなどで205人が死亡し、730万人が被災。18万3千の家屋が全半壊し、40万人が避難生活を強いられている。

ニューヨーク・タイムズ紙は、大規模な移民流出の引き金となった1998年の大型ハリケーン「ミッチ」に被害の大きさをなぞらえる被災地の声を伝え、「もし新たな移民の波が起きれば、難民申請者に門戸を広げることを公約しているバイデン新政権の試練になるだろう」と指摘した。ネット上ではすでに、来年1月にホンジュラスを出発してアメリカを目指す移民キャラバンの情報が取り沙汰されている。

「私はやると言ったことはやるが、初日ではなく、たぶん今後6カ月はかかるだろう」

バイデン氏は12月22日の演説で、就任初日に撤廃するとうたってきた「移民保護手続き」について、準備に時間がかかるとしてトーンダウンさせた。

メキシコとの国境を越える移民はこれまでも、米政権を揺さぶってきた。オバマ政権時代の2014年には子どもだらけの中米移民が押し寄せ、トランプ政権の2018年には数千人規模のキャラバンが到来した。新たな移民危機が起きれば、「癒し」を掲げてコロナ対策と経済再生に集中するはずだったバイデン政権の目算が狂うことは避けられない。

村山 祐介 ジャーナリスト

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むらやまゆうすけ / Yusuke Murayama

1971年、東京都生まれ。立教大学法学部卒。1995年、三菱商事株式会社入社。2001年朝日新聞社入社。2009年からワシントン特派員として米政権の外交・安全保障、2012年からドバイ支局長として中東情勢を取材し、国内では経済産業省や外務省、首相官邸など政権取材を主に担当した。GLOBE編集部員、東京本社経済部次長(国際経済担当デスク)などを経て20年3月に退社。アメリカに向かう移民の取材で2018年の第34回ATP賞テレビグランプリのドキュメンタリー部門奨励賞、2019年度のボーン・上田記念国際記者賞を受賞した。

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