移民700人放置「トランプの壁」が招いた惨状 今も親と連絡が取れない子どもが666人いる

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難民申請者は従来、アメリカ内の親族などに身を寄せて審査を待つことができたが、トランプ政権は移民の抑止を狙ってメキシコ側に送り出す方針に転換。これまでに約6万人が送還され、約3200キロにわたるメキシコとの国境の外に身寄りのない申請者があふれた。追い打ちをかけるように今年3月、コロナ禍で審査そのものが止まり、見通しがないまま「放置」された状態になっている。

麻薬カルテルによる抗争や移民の誘拐が多発するマタモロスは、アメリカ国務省がシリアやアフガニスタンと並ぶ危険地帯に位置づける場所だ。だが、母国に戻れば身の危険があるうえ、「戻れたなら大丈夫」と判断されて難民認定の道は閉ざされる。行きも戻りもできないまま、長い人で1年半以上、当てもなく暮らしている。

ストレスを抱える子どもたち

キャンプの前を流れる幅15メートルほどのリオグランデ川の対岸がアメリカの地だ。

「穏やかそうでしょう?」。案内してくれた地元警備員フアン・マヌエル(39)は言った。「でも水中で渦を巻いていてとても危険で、大勢溺れています」。アメリカ国境警備隊の統計によると、川沿いの管区では毎年、200人前後の遺体が見つかっている。

一見穏やかなリオグランデ川。地元住民によると水中は渦を巻いているといい、溺れる移民が相次いでいる(写真:筆者撮影)

1歳の次女を抱いたエルサル移民の主婦ブランカ・イバネス(26)は、この川を渡ることが一度だけ頭をよぎった、と明かした。だが4カ月前に知人2人が川に入り、1人が目の前で溺れて命を落とした。「それからは、ただ待ち続けているだけです」

イバネスの夫(37)と生まれつき腕のない長女(7)はすでにアメリカにいる。その後を追ったはずが、新手続きでメキシコに送り出された。「母国では義手も買えず、暮らしていけません」。答えているうちに、大粒の涙がボロボロこぼれた。「帰るつもりはありません。この子とアメリカに行きたいんです」。

母国を出てからの日々を振り返りながら、エルサルバドル移民ブランカ・イバネスは大粒の涙をこぼした(写真:筆者撮影)

自らもキューバ移民の医師エルネスト・メリノ(31)は、住民の精神状態を心配する。「フェンスに囲われたキャンプでのテント暮らしで、遊び場もありません。子どもたちはどうしてここにいるのかもわからないまま、ストレスを抱えています」

アメリカのNPO「連帯エンジニアリング」代表のエリン・ヒューズ(32)は、キャンプ内に遊び場をつくる工事を進めていた。「子どもたちが集まって遊べる安全な場所が必要です。君たちは『忘れられていないよ』と伝えたい」。

大統領選でコロナ禍や経済不振の影に隠れていた移民問題に光が当たったのは、10月22日の最後の大統領選討論会だった

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