「本能寺の変」前日、信長が決行した茶会の真相 「本能寺の変」の真犯人を巡るひとつの視点

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だが初対面の博多の豪商に「予の上洛まで待て」とは、いくら信長にしてもまだ言えない。とにかくこちらから会いに行くしかないのだ。

「楢柴肩衝」は信長を京都に誘き出すわなだった

援軍を要請する羽柴秀吉の早馬により、「天下布武」達成の最後の決戦たるべく、西国制覇のため自らも軍勢を率いて出陣を決意したところであり、ぜひとも「楢柴肩衝」譲渡の話だけはつけておきたい。

そのため、千宗易から島井宗室に連絡を入れさせ、「6月1日なれば、上様の御館に参上仕つる」との確約を得たのであろう。

かくして信長は、安土城から38点もの「大名物茶器」を運んで「楢柴肩衝」の茶入欲しさに5月29日の大雨の中、最も無防備な形で本能寺に入ってしまったのだ。

この事実は単なる推論ではない。38点の「大名物茶器」に関して、「本能寺の変」より11年後の文禄2年(1593年)、堺の茶人・宗魯(そうろ)によって筆録された『仙茶集』の中に、【島井宗叱(宗室)宛て長庵の道具目録】が収録されており、その冒頭に「京ニテウセ(失せ)候道具」とあって、以下、件(くだん)の38点が記載されているのである。

〇作物(つくも)茄子(九十九茄子)〇珠光(じゅこう)茄子〇円座肩衝〇勢高(ぜいだか)肩衝〇万歳(ばんぜい)大海〇紹鷗(じょうおう)白天目〇犬山灰被(はいかつぎ)〇珠光茶盌〇松本茶盌〇宗無茶盌〇高麗茶盌〇数の台二つ〇堆(つい)朱(しゅ)の龍の台〇趙昌筆の菓子の絵〇古木(こぼく)の絵〇小玉澗の絵〇牧谿(もっけい)筆くはいの絵〇牧谿筆ぬれ烏の絵〇千鳥香炉〇二銘の茶杓〇珠徳作の浅茅茶杓〇相良高麗火筋(ひばし) 同鉄筋(てっぱし)〇開山五徳の蓋置〇開山火屋(ほや)香炉〇天王寺屋宗及旧蔵の炭斗(すみとり)〇貨狄(かてき)の舟花入〇蕪(かぶら)なし花入〇玉泉和尚旧蔵の筒瓶(つつへい)青磁花入〇切桶の水指〇かへり花水指〇占切水指〇柑子口の柄杓立〇天釜〇田口釜〇宮王釜〇天下一合子水翻(みずこぼし)〇立布袋(たちほてい)香合〇藍香合
(本能寺の変後、焼け跡から「作物茄子」「勢高肩衝」の2点が拾い出されて現存している)
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