『キカイダー』は日本人のカリカチュアだ 映画界を牽引する角川&東映「W伸一郎」に聞く

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 石ノ森ヒーローの最高傑作とも言われる特撮アクション「人造人間キカイダー」を最新の造型&VFX技術で復活させた完全新作『キカイダー REBOOT』が5月25日より公開されている。
 そう遠くない未来にやってくるであろう社会の限界。その時のために、人間の手では克服できない諸問題を、ロボットの平和利用によって日本国民に幸せをもたらそうという「ARKプロジェクト」が進行していた。しかし、その過程で、ロボットに“心”=「良心回路」を持たせようとした主任研究員の光明寺博士が非業の事故死を遂げる。彼が息子・マサルの体に残した研究データを狙って、謎の特殊部隊が動き出す。そんなマサルと姉のミツコを守ったのは、光明寺が造ったアンドロイド・ジローだった。ミツコとジローは人間とアンドロイドの壁を越え、静かに“心”を通わせていくが、そこにジロー=キカイダーを破壊しようとする暗黒の戦士・ハカイダーが現れる――。
 心を持ったロボットが、善と悪という、相反する感情に苦悩する――という原作が育んだ世界観を守りながらも、幅広いエンターテインメントを追求するKADOKAWAと、長らくヒーローという存在を問い続けた東映というコンビネーションにより、まったく新しいキカイダーを生み出している。
 今回は、株式会社KADOKAWAの代表取締役専務・井上伸一郎と、東映株式会社の取締役企画製作部長・白倉伸一郎という2人のプロデューサーに「現代のヒーロー像」について聞いた。
 ●前編「角川×東映で作る新機軸のヒーロー」はこちら
(C) 石森プロ・東映 (C) 2014「キカイダー」製作委員会

――もともと「キカイダー」は「善と悪」をテーマにしていました。それはまさに、近年、ハリウッドで映画化されるアメコミ映画に共通するテーマのように思うのですが。

白倉:そうですね。図らずも現代的なテーマになりました。(ヒーローの苦悩などをハードボイルドなタッチで描き出し、後のバットマンシリーズに多大なる影響を与えたフランク・ミラーによる傑作コミック)「バットマン: ダークナイト・リターンズ」は確か1980年代に発表されたと思うのですが、あれもやはり日本のマンガやアニメに影響されたものです。それがようやくここ数年で実写映画の分野にも広がってきたのではないかと。これはおこがましい言い方ですが、ようやく向こうが追いついてきた、という気構えでいます。要するに、われわれがアメコミのヒーロー映画の後追いをするわけではないということです。

――たとえば「平成ライダー」ではダークなテーマの作品もありましたが、白倉さんが思う現代のヒーロー像とは? 

白倉:難しいですね。仮面ライダーも含めた70年代のヒーローはだいたい「全滅系」と言いまして。ほとんどが生き残らない。特攻精神と言いますか、自爆だったり、最後が死で終わるものが多かった。

かつてのヒーローというものは、自分がヒーローになりたい、あるいはこんなヒーローがいてほしい、というようなあこがれの対象だったと思います。最後には義を尽くし、自ら命をなげうつ自己犠牲にあこがれていたのか? 70年代には、作り手側も、受けての側も、理屈ではない日本人としての美意識があって、それがたまたまヒーローという形を借りて描かれていただけだったような気がします。

だからといって、今、それをストレートに持ち込めるかというと、その美学とはまた違うような気がします。ヒーロー像がかつてと違ってきているなと思うのは、現代のヒーローたちが社会の秩序を守るために戦うのではなく、自分もしくは自分を含む集団のために行動するということ。あるいは極端に言うと、自分自身のポリシーや美意識を守るために戦っているとも言える。言葉は悪いですが、個人主義的なのが今のヒーローなのではないか、という気はしています。

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