『キカイダー』は日本人のカリカチュアだ 映画界を牽引する角川&東映「W伸一郎」に聞く

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キカイダーの矛盾

――まさにキカイダーは、自らのアイデンティティに悩むヒーローです。

白倉伸一郎 しらくらしんいちろう 1965年生まれ。東京都出身。東京大学卒業後、1990年に東映入社。「仮面ライダーアギト」「仮面ライダー龍騎」「仮面ライダー555」のチーフプロデューサーとして平成仮面ライダーシリーズの礎を築く。2009年には東映テレビ・プロダクション代表取締役社長に。2010年には東映東京撮影所長に。2012年には東映株式会社取締役企画製作部長に就任。特撮作品のみならず、東映が制作する実写作品にも企画・製作としてかかわっている

白倉:彼は人間ではなくロボットであることを強烈に意識して、悩んでいる。つねに自分はいったい何者なのだと、ずっと突きつけられ続けているんですね。自分自身の問題が解決しないから、彼は敵を倒したとしてもうれしくない。自分がロボットだから、結局、ロボットが敵だと言い切ることができない。ますます矛盾していくわけです。

井上:父親である光明寺博士が作ったという意味では、兄弟ともいえるロボットたちと戦わないといけないというのは、実はすごく難しいテーマなんですよ。

――確かに、「仮面ライダー」や「サイボーグ009」といった作品でもそうでしたが、自らが所属していた組織と戦うことになるヒーローというのは、石ノ森作品に共通するテーマですね。

白倉:幸いにして、誰もキカイダーに世界を守れとか、地球をどうしろとは期待していないのですよ。ロボットだから。だからこそ逆説的に、ジロー=キカイダー自身が、自分の定義をどこに位置づけたらいいのだ、と悩んだ末にヒーロー性を獲得していく話になった。自分は何だと考えた結果、世界を救うヒーローになってしまったわけです。

だから、もともと石ノ森先生の原作にそういう要素があったにせよ、かつての70年代のときのような、社会のために自分を犠牲にしていく、社会ありきのヒーローとはまったく逆のベクトルになったわけです。自分のことを考えていたら、結果的に世界のことや社会とかかわることになったという、スタート時点とゴール地点がひっくり返ったという形。これは無理やり現代風にしようとしたからそうなったのではなく、「キカイダーとは何か」ということを突き詰めていくとそうなったということです。あらためて石ノ森章太郎という人のすごさを感じましたね。

――先見の明があった。

井上伸一郎 いのうえしんいちろう 1959年生まれ。東京都出身。早稲田大学中退後、アニメ雑誌にアルバイトとして参加。その後、フリーの編集者に。1987年に角川書店の子会社の株式会社ザテレビジョンに入社。『月刊ニュータイプ』『月刊shu shu』『月刊少年エース』などの編集長を歴任。2007年に角川書店の代表取締役社長に就任。現在は2013年に組織変更された株式会社KADOKAWAの代表取締役専務

井上:先見の明と同時に普遍性ですね。「キカイダー」というものは少年性というか、成長期・思春期のカリカチュア(人物の描写)だと思っているのですよ。良心回路を持つロボットというアンバランスさがあって。将来が見えない不安感といった、思春期に抱く揺れ動く心のようなものが、良心回路を通して描かれているのだとしたら、キカイダー自身が少年であり、思春期の象徴だと思うのです。

特に今は思春期が非常に長くなっていて。昔だったら中高生で終わっていた悩みが、今では20代、30代、40代になってもまだまだ迷っていたり、悩み続けていたりしている。そうなればなるほど、キカイダーというものが、単なる思春期のカリカチュア(人物の描写)ではなく、もはや日本人のパーソナリティのカリカチュアになっているのではないかと。結果的に現代的なヒーローになっているのだなと感じています。

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