「学術書」を読めようになると読書が変わる理由 「難しい本」と敬遠していてはもったいない

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わかりやすさを追求するあまり起きがちなのが、込み入った議論をすべて外してしまうという事態です。編集者が「ここ、わかりにくいから外してください」と言うと、それでまた著者が外したりする。それはやめようよという話です。

スラスラ読める流動食のような本は、その分学問的精密さや深さに欠けるきらいがある。突っかかりのないわかりやすさ優先で、エビデンスとか対立意見とか別の見方があることを紹介せず、これがすべてです、みたいな本であってはならない。「ややこしいけど、こんな議論もあってね」と紹介することで、理解はさらに深まります。

心情的なわかりやすさを求めることにも落とし穴があります。人は自分が理解できる、同感だ、信じたいというものに引っ張られる。すると、本当にそれが裏打ちされた議論なのか、ある種の懐疑主義みたいなものが湧きにくくなる。

難しすぎたら一旦「塩漬け」にする読み方も

──とにかく投げ出すな、と。

鈴木 哲也(すずきてつや)/1957年生まれ。京都大学文学部、教育学部卒。京都の編集プロダクションで学術書のリライト、編集に携わった後、1994年に京都大学学術出版会に転職、2006年より現職。著書に『学術書を書く』(共著)など。撮影:ヒラオカスタジオ)

自分がわからないのは、この部分の理解が欠けているからなんだなと気づいたら、そこを勉強したくなりませんか? わかりにくいものを読むのは苦痛なんだけど、ある種の喜びというか、世界を広げていくチャンスになる。僕は本を読んだら、面白かったとか納得できなかったとか、スタッフに感想を話すんですが、人に話すにはしっかり理解できていないと駄目だから、どこがどうわからなかったかを調べなきゃいけない。そんなふうに、人に話すことをモチベーションにするのも手ですよ。

あと、これは尊敬する数理生物学者の話ですが、いったん塩漬けにする方法もあります。自分に足りないものが整って、理解できるようになるのを待つ。ほかの読書や体験など別の要因と混ざって、面白く感じるようになるのを待つ。

──粘り強く食い下がって乗り越えた先に、得られるものとは?

一度学術的な読み方に慣れておくと、小説でも何でも批判的な見方ができて、広く見渡せるようになります。引いた形というか、突き放した形で楽しめる。

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