30代半ばを過ぎた頃から、お正月に届く年賀状が楽しみになってきました。転職、引っ越し、結婚、出産など、幸せそうな写真に添えられた近況報告の中に、1枚だけ違うトーンのものがありました。
「『産後クライシス』による離婚の依頼が多いです」。それは大学の先輩で弁護士の上野奈央子さんからの賀状でした。元気そうで可愛い上野さんのお子さんたちの写真と「産後クライシス」という言葉のミスマッチに驚き、その夜すぐメールを送ってしまいました。「どういうことですか。話を聞かせてください」。
「金の切れ目が縁の切れ目」な現実
埼玉県朝霞市にある塩味法律事務所で離婚など家事事件を多く手掛ける上野さんは、「離婚を決意して法律相談にくる女性から、夫に対する不満を聞いていて、さかのぼると産後クライシスに行き着くことは本当に多い」と言います。たとえ熟年離婚であっても、「『子どもが小さいときに仕事ばかりしていて帰りが遅かった』とか『家事や育児を馬鹿にするようなことを言われた』といった記憶を、妻は何年も、何十年も持ち続けているのです」。
そして、夫が退職金などでまとまった額を手にした際、「妻を軽視するような言動を見せると、妻は離婚を決意することが多い」そうです。稼いでくるという機能を失った夫と、これ以上、我慢して一緒にいる意味はない、という計算が、無意識のうちに働くことは想像に難くありません。
産後クライシス離婚のもうひとつの特徴は、夫の退職まで、妻が待たないということです。「産後クライシス真っただ中に、子どもがまだ0歳のうちに離婚を決意する妻も少なくない」と上野さんは言います。「妻の年齢が若いと、仕事をしているか否かにかかわらず離婚します。ポイントは仕事の有無より実家の支援。実家が住むところを提供してくれ、子育てを手伝ってくれるなら、同居しながら仕事ができるから、夫と別れても暮らしていける、と考えるわけです」。
上野さんの話を聞きながら、何度も「本当だったんですね……」と相づちを打っていました。育児をしない夫に反省を促すために「妻に愛想をつかされますよ」というのは、よく聞く言葉ではあったのですが、本当にそういうことがたくさんあるのだ…と正直なところ、驚きました。夫婦関係は思っているより壊れやすいのかもしれない、と。
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