美男美女のカップル。女性誌だったら「イケダン」(=イケてる旦那)のページに登場しそうだ。夫は生後3カ月の娘を自然にあやし「外の席は喫煙だから、中の席がいいよ」と取材場所選びまで配慮してくれた。
しかし本連載は美しい家族の美しい話「だけ」を紹介するものではない。おふたりに登場いただいた理由は、5年の年月を経て、夫婦関係がいかに変わっていったか、率直にお話くださったからである。
ドアチェーンで、夫を締め出した日々
「私、ドアチェーンをかけて夫を締め出したこともありますよ」。妻の浜田洋子さん(仮名)は言う。それは第1子が生まれて間もない2010年ごろのこと。夫の浩二さん(同)連日、飲み会で遅い帰宅が続いた。22時、23時は当たり前。当時、ふたりは同じ会社で働いていたから、残業を理由に遅く帰る夫が本当は飲みに行っていることは、妻の耳にも入ってきた。
一方、洋子さんは17時30分に会社を出て18時には保育園に息子を迎えに行き、食事を作って食べさせてお風呂に入れる「怒濤のスケジュール」をひとりでこなしていた。「せめて、19時か20時に帰って子どもをお風呂に入れてほしい」。これが彼女の一貫した希望であり、夫に対する要求項目であり、そして何があっても譲らなかったことでもある。
妻の希望する夫の帰宅時刻19~20時と実際の夫の帰宅時刻22~23時。わずか3時間と思われるかもしれないが、子育てしながら働いている母親たち、とりわけ小さな子どもを持つ人たちは、この3時間をひとりでこなすのがいかに大変か、骨身にしみてわかるだろう。今回のテーマは、平日夜の黄金の3時間に、家庭にパパを取り戻すため本気で戦った妻のドラマである。
結婚したのは浩二さん27歳、洋子さん29歳のとき。若いためかけんかも派手だった。「ハリウッド映画みたいにモノが飛びました」と浩二さん。浩二さんの帰宅が遅い日が続くと、洋子さんは家のドアにチェーンをかけて締め出した。夜中の2時、3時に電話が鳴っても出ない。
マンションのロビーにあるソファで一夜を明かした浩二さんが、土曜日の朝、謝るが、午前中いっぱいはけんか……ということもあった。第1子が生まれた直後の2010年から2012年までの2年間は「毎週のように話し合いをした」(洋子さん)。
当初、洋子さんの要望は浩二さんには「正論だけど受け入れがたい」ものに思えた。「これまでの自分をすべて否定されるような感じだし、妻に負けるような気がした」。妻からすれば「どうしてわからないの? 私は仕事を切り上げているのに」ということになる。一方、「もっと早く帰れないの?」と妻から言われ続けている世の夫たちには、浩二さんの気持ちがわかるかもしれない。
なぜ、早く帰ろうとしなかったか。そこには「俺が稼いでいるから」という気持ちがあった、と浩二さんは振り返る。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら