そこは塾というより、開業して間もないオフィスのようだった。白い机と椅子が20~30人分並ぶ広い空間。半個室に区切った会議室風の空間。入口に近い壁に置かれた本棚で目立つのは『137億年の歴史』、『数学の歴史』、歴史漫画、科学雑誌『ニュートン』。窓際の大きめの机の上にはパソコンとアイスコーヒー……。
ここは塾長の宝槻泰伸(ほうつきやすのぶ)さんの席。現在33歳の彼は塾長というより「スタートアップ・ベンチャーの経営者」というほうが似つかわしい。
「変わった塾、始めます」の真意
宝槻さんが2年前、東京・三鷹市に学習塾「探究学舎」を開設したときは、近隣にこんなチラシを配った。「変わった塾、始めます――」。以来ずっと、成績向上や進学実績のみを追求せずに、チラシと口コミで生徒を増やしてきた。
現在、東京で2カ所、関西1カ所の計3拠点で塾を開き、計180人の小中高校生が学んでいる。目指すのは「自ら学ぶ楽しさを身に付けてほしい」ということだ。
変わったチラシ、変わった教育方針に引かれて集まるのは、自分の子どもに「学ぶ楽しさを知ってほしい」と望む保護者であり、従来の進学塾に疑問を抱いている層だ。
「その子の興味関心や能力を見極めて、教材や進め方を工夫すれば、学ぶことが好きになり、結果的に伸びる」と宝槻さんは信じている。実際、数学嫌いの高校生に数学史を使って公式の成り立ちを教えたり、国語が苦手な中学生に小学生の教材から学ばせたりして、「面白い!」「わかる!」と開眼した例もある。
「勉強に万能薬はないけれど、個々に効く特効薬はある」と宝槻さんは考える。
探究学舎が重視するのは、その名のとおり「探究心と自発性」。生徒たちは、興味を持ったテーマを研究したり、クラスメートと議論したりしながら自分のノートにまとめていく。「ニュートンは万有引力をどうやって発見した?」「地球の直径はどうやって測る?」など、スケールの大きな「問い」を先生が投げかけながら、子どもの興味関心を引き出していく。そのうえで、子どもが調べたり考えたりする過程を支援する役割を担う。その際、映像や漫画を多用するのも特徴的だ。
この手法はユニークなだけでなく、説得力もある。宝槻さん自身も同じように学び、京都大学に合格した実績があること。さらに、何と宝槻さんの2人の弟を含めた3兄弟は、全員、同じように家庭の中で学び、塾はおろか、高校にも行かずに京都大学に進学、卒業しているのだ。
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