水野:小学校で英語を勉強させたってしゃべれるようになんかなりませんよと、ちゃんと言ったほうがいいんですよ。
安河内:現在だと8年間、小学校低学年からの導入が実現したときには10年間の英語教育が終了したときに、平均的にどれくらいの英語力が達成されているのかというビッグビジョンが、人によって違う。ネーティブスピーカーみたいにならなくてはいけないと思ってるし、人によってはいろんな言語がある中で、日本語を母語として使う外国語のひとつだと認識してるし、このビッグビジョンを統一しないで小学校での話ばかりをすると、誤解を招いてしまいます。
ぜひ強調したいのは、私自身は8年間なり10年間の英語教育を経た後で、確固たる母語の土台、論理力のうえに、発音にも文法にも多少問題があっても、ちゃんと自らの口で発話できる英語力が、なんとか組み上げられているというくらいの状態が、私たちが平均的に子どもたちに求める英語力だろうと思っています。
水野:それは英語教育の「ゆとり教育化」だと私は思うんですね。平均的にできるようになればいいと。ゆとり教育がああいうふうに失敗したことを考えても、どの教科もできる子とできない子がいますよね……。
安河内:当然、それはそうです。どの教科においても指標や評価基準が必要になるので、平均という言葉を使いましたが、当然、できる子はもっとできるように、英語が苦手な子はほかの教科や個々の特性を生かして、そちらで頑張るということでいいと思います。
水野:その特性を問うのは、中学生からではなぜ遅いのかということが、私は納得がいかないのです。
安河内:よく言われることなんですけれど、中学1年生での英語のドロップアウト・レートはけっこう高いのですね。苦手意識を持っている子は非常に多いという統計もあります。
水野:小学校(5、6年生)から英語を導入したことによって、かえって英語嫌いの子どもが増えているというふうに聞いていますが。
安河内:統計的にはそうではありません。これはきちんとした数字が文科省からも出ているのですけれども、小学校の英語教育によって、統計的には英語が好きになっているのです。もちろん、逆に嫌いになる子はいるとは思うのですが、圧倒的に好きになっている子のほうが多いんですね。
水野:それはあくまでも歌や踊りやゲームだから好きなのであって、中学生になって、教科として習うときには、結局、そんなわけにはいかなくなるのです。
安河内:それも反駁させていただくと、統計的には小学校のときに英語をやったことによって、中学校の勉強がスムーズになっているという数値がきちんと出ているんですね。
水野:そうすると小学校での英語教育の目的と、またズレてきませんか。中学生になったときの英語嫌いを減らすということになると、小学校英語は結局、中学の英語教育の前倒し、ということに聞こえるのですけど。そもそもの目的はコミュニケーションのはずですよね。
安河内:中学1、2、3年生で急な坂道を上らせすぎて、先生たちが急ぎすぎて、文法などもどんどん詰め込む。これがおそらく英語嫌いが増えているひとつの大きな理由だと思います。この急な坂を緩やかにするために……そうですね、私は過度の前倒しはするべきではないと思っていますが、これは多少の前倒しではありますね。現在、使われている「ハイ・フレンズ」という教科書を見ても、文科省は前倒しという言葉は避けていますが、前倒しだとは思います。
水野:そこがズルいですよね。中学校の前倒しをやりますというのなら、まだ取りつく島もありますが、そんなつもりはありません、文法もやりません、あくまでもコミュニケーションのために、文化のためにというと、ウソが見えるんですよ。結局、やらないと言っていた前倒しじゃないですか。
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