小学校で勉強しても話せるようになりません 日本の英語教育を変えるキーパーソン 水野 稚(2)

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すべてはバランス

安河内:これはアブレスト、つまり並行してやらなくてはならないと思います。英語というのはもちろん4技能あるわけだし、文字的な面と言葉を使ってキャッチボールをする面がありますね。すべてはバランスだと思うのです。英語という言葉を学ぶ、その言葉を学んでキャッチボールの練習をする。週に3時間ありますから、たとえばその1時間が文字や言葉としての英語を学ぶ時間とか、1時間がキャッチボール、コミュニケーションを学ぶ時間とか、残りは声に出して読む時間とか、そういうふうに3時間の中で工夫をして組み合わせるべきだと思います。

水野:安河内先生のおっしゃるコミュニケーション英語というのは、あくまでも「話す」と「聞く」しかないわけですね。

安河内:もちろん、「読み」「書き」も少しは導入するべきだと思います。今の文科省の案ではあまり「読み」「書き」は重視してないのですけども……。

水野:私がお聞きしているのは、そのことではなくて、安河内先生がコミュニケーション英語と言うときには、「話す」「聞く」のことをおっしゃっていますよね。応用言語学の文献でコミュニケーション能力の定義がされているのですが、その1は文法力なのです。コミュニケーションというのは、たとえば「読む」とき、「書く」ときには、書き手と読み手のコミュニケーションも考えられるし、「話す」「聞く」だけがコミュニケーションとしてしまうと……。

安河内:もちろんそうです。すべてバランスですよね。文法はもちろん大事ですが、知っているだけで使えない文法だとまったく意味がないわけで。

水野:まったくそのとおりですね。

安河内:私は「自動化」という言葉でこれを表しているのですが、EFL環境だと型を学んで型を自動化して使う訓練が効率的だと。型の自動化をしないままに、野放しにしておいてコミュニケーションができるようになるとは、私も決して思わないです。

小学校の英語教育でも、型を学んでその型を使って訓練する。柔道とか剣道とかと同じようなやり方でやらなければならないと思います。

水野:中学校の英語教育では型を教えていますが。

安河内:自動化訓練の時間が足りなくなっています。

水野:では、型を教えている今の中学校英語教育に、先生のおっしゃる「自動化訓練」を加えれば、事は足りるのではないですか。小学校の段階で、日本語もまだ固まっていない段階で、そんな高度なことを全員に求めるのは酷ですよ。

安河内:今の中学でも上り坂が急すぎて、時間が足りなくてできない状況があるので、多少の前倒しをして、上り坂を少しなだらかにしてやるといいのでは。

ここでひとつ重要なことは、自動化にしても文法教育にしても、やりすぎないこと。危惧されるのは、中学受験に英語科目が導入されることです。もしそうなったら、正直に言って壊滅的な打撃を受けるのではないでしょうか。

水野:私もそれは危惧しているところです。でも、教科化するということは、結局、そういう道につながりますよね。

安河内:そこは文科省がきちっと指導をして、歯止めをかけなければならない。私立校に強制力を持てるのかはわからないですが。

ブームの加熱?! 教育産業も動き出した

水野:そうなると、やはりまた最初に申し上げた公教育の機会の平等・均等化に問題が出ます。私学に指導しても止まるとは思いません。公立の学校と私学には差があってもいい。しかし、公教育の中で差が出るのがマズいと言っているのです。

安河内:確かに公教育は「万人にあまねく」ですからね。ちょっと付け加えさせてもらうと、私学についてですが、中学受験の問題というのは大学受験のミニチュアになるのですよ。だから、現状の大学受験問題をそのまま放置して、中学受験にまで英語が課されると、とんでもないテスト問題が出題されることになります。それに対して、また塾や予備校が対策をする。そうなると英語教育の完全なる崩壊につながるおそれがあります。

水野:今の時点でも、小学校の英語教育を学校で始めるとなってから、いろんな教育産業が動いていますよね。そういう動きが世論を形成して、「うちの子にもやらせないと遅れてしまう」「学校教育だけでは足りないかもしれない」という親心に付け込むことになっていませんか。

安河内:それがよい指導ならばやることに意味がないとは思いませんが、やはり英語だけが加熱しすぎることはよくはありませんね。

水野:今までの歴史を振り返れば、加熱してるのですよ、毎回。戦後もブームがあり、前回の東京オリンピックでもブームになり、英会話ブームが繰り返し繰り返し来ていて、来るたびに加熱し、その都度、ブームは終わっているのです。

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