論争勃発! 小学校の英語教育は意味がない!? 日本の英語教育を変えるキーパーソン 水野 稚(1)

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 テレビ番組「侃侃諤諤」「言いにくいことをハッキリ言うTV」(テレビ朝日系)で、英語教育について2回にわたり大議論を巻き起こし、スタジオとお茶の間を騒然とさせた安河内哲也と水野稚が、もう一度、東洋経済オンラインで場外乱闘。まさに犬猿の仲ともいえるこの2人は、今度こそ、着地点を見つけられるのか?

 地域格差が生まれかねない

安河内:文部科学省は2013年1月、グローバル人材育成に向けての英語教育改革案を発表しました。目玉は小学校で英語教育を本格的に開始するということです。

現在、小学校5、6年生でアクティビティ型の授業が週に1時間ずつ行われているのに対し、この案では小学校3、4年生でアクティビティ型の授業を週に1時間ずつ、小学校5、6年生で教科型の英語授業を3時間ずつ行うと提案されており、英語が占める割合が小学校でも大きくなります。これは東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年までに順次実行されていくことがもくろまれています。

今回は「小学校での英語教育は意味がない」という立場の水野先生をお迎えして、文部科学省の有識者会議の委員でもある私が、これからの小学校英語教育の導入に向けて、どうすれば意味のあるものになるのか、議論を戦わせながら探ってみたいと思います。

まずは、どうして小学校の英語教育に意味がないのか、水野先生のご意見をお聞かせ願えますか。

水野 稚(みずの・ゆか)
Mizuno Method English Language School(MELS)代表
企業英語研修講師、大手英会話学校講師を経て、青山学院大学で国際コミュニケーション学修士号を取得。東京大学大学院博士課程にて英語教育政策を研究。在籍中にオックスフォード大学大学院へ留学し、応用言語学および第二言語習得専攻にて修士号を取得。現在は「みずのメソッド」を伝える教室を銀座と吉祥寺で展開しているほか、慶応大学や上智大学で教鞭を執り、「All About(オールアバウト)」の英語学習ガイドとしても人気を博す。単に「英語が話せる」だけでなく、国際教養人としてのマナーや、日本文化を発信するための英語力の習得を目指す指導法を採り、世界を目指す学生や一流のビジネスパーソンからの信頼も厚い。近著に『これだけで聞き取れる!英語リスニングたった3つの秘密の法則』(Gakken)がある。

水野:小学校の英語教育というのは、公立の小学校が対象ですね。公教育のあり方として、日本全国の小学生にできるだけ平等な教育の機会を与えようというのがあります。先ほどおっしゃられた東京オリンピック・パラリンピックのために、ということでいえば、目的にかなうのは東京の子どもたちで、それ以外の県の子にはあまり関係がありません。平等性に欠けるものを見切り発車的に導入することに、まずは問題があるのはないでしょうか。

安河内:地域格差の問題ですね。これを埋めるには発達したインターネットや比較的使いやすくなったさまざまなメディアを用いる方法があると思います。

現在は「ハイ・フレンズ」という紙の教科書を生徒たちに配って、教員には教員用のCDが配られています。教員の研修はDVDを学校ごとに配布して行われていますが、私はこれはまだ不十分だし、これを続けていくと地域格差が大きくなると思っています。

現状では先生が「音」にアクセスできても、生徒が「音」にアクセスできない状況です。「音」にアクセスできない英語教育というのはいったい何なのかと、私は思うのです。パソコンは現在では一家に1台普及しつつあると思いますし、タブレットなども非常に安価に手に入るようになっています。もっと安価なオーディオプレーヤーでもいい。そういった機器を使って、誰もが教科書の音に簡単にアクセスできるような仕組みを、クラウドテクノロジーなどを使って作るべきじゃないかと思います。

水野:いわゆるEラーニングのようなことですか。発展途上国でもそういった方法で教育を広げようとしているようですね。

「音」を供給することが大事

安河内:Eラーニングというよりも、現状の「音」にアクセスできない状況を改善したいということですね。これは中学でも高校でもそうなのですが、紙の教科書で教わって「音」にアクセスできないままだと、英語の発音指導ができる先生がいる学校とそうでない学校の格差が広がっていくことになります。それを均等にするためには、やはりインターネットを活用して「音」を供給することが大事です。

教員の養成に関しても、現在の文科省の案では、地域にリーダーを作って、そのリーダーの先生が地域の先生たちを育てるということになっています。でも、それに加えて、ICT(情報通信技術)を使って、文科省でひとつの大きなトレーニングシステムを作ればいいと思うのです。

水野:なるほど。

安河内:たとえば英検の面接官は、オンラインでトレーニングをして、オンラインでテストを受けて、もし不合格なら再度トレーニングをしてテストをして、受かるまで面接官の資格が更新されないというシステムがあるのです。地域格差の問題に関して、先生方が簡単に受けることのできる、こうした研修システムを作ることも役立つと思います。

オリンピックと英語教育に何の関係が?

安河内:それと、オリンピック・パラリンピックに関してですが、正直なところ、私もオリンピックと英語教育が何の関係があるのだろうと、文科省の案を見て最初は思ったのです。

しかし、物事には3カ年計画とか4カ年計画とか、期日的な目標をつけておかないと、議論ばかりで何も達成されないということになりがちなので、今回はひとつのアイコン的な達成目標として、東京オリンピック・パラリンピックを利用したというくらいに考えればいいのではないかと思います。

水野:小学校の英語教育導入のそもそもの目的は、英語でコミュニケーションをしようという態度を養うということですよね。

そうなると、むしろ正確な英語の音声というよりは、外国人と会って、実際にコミュニケーションをとることが目的だったはずで、インターネットやタブレットをいくら使ったところで、今までのカセットテープやCDを使った授業とさほど変わりはなくて、結局はリアルなコミュニケーションに関する教育というのは、外国人教師に来てもらいやすい都市部などに集中してしまい、注目に値する変化というのは起こらないのではないかと思います。

音声を徹底的に鍛えたいということが目標ということであればわかるのですが、そもそもの目標・目的に安河内先生がおっしゃっていることは合致しないのではないですか。

それとオリンピックに関してですが、オリンピックというのは世界中がスポーツでつながる祭典です。経済的に豊かでも貧しくても、どの国もとにかく参加しようと。ですから、入場行進のときも「こんにちは」や「ようこそ」とそれぞれ自国の言葉で行進してもらってるはずです。

そういう場であるオリンピックを英語漬けにするというのは、そもそものオリンピック精神に反します。以前の東京オリンピックのときにも英会話ブームになった歴史もあります。オリンピックと小学校での英語教育をつなげるのは、どうかと思います。

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