3兄弟の家庭での学習方針は、彼らの父親が独自に考案したもので、その核となるアイデアが探究学舎の教育手法に取り入れられ、実践されている。
たとえば映像を使った学習。宝槻さん自身は「NHKスペシャルで社会を、名作映画で英語を、漫画で歴史を勉強しました」。父親が借りてきた名作映画を見たり、歴史漫画を読んで楽しみながら学んだ経験を生かしている。
今、探究学舎ではNHKスペシャルやYoutubeなどを活用、数学も歴史も映像作品を通して関心を持てるようにしている。たとえば小学校5年生の生徒たちが素数の謎とリーマン予想を描いたNHKスペシャルを教材にディスカッションする。
「もし、君たちがガウスだったら、どうする?」と問いかけると、子どもたちはそれぞれに思いついた答えを口にする。そこで追加してこんな質問をしてみる。「もし、これを解いたら1億円もらえるとしたら?」。遊び心にもスイッチが入り、議論にさらに熱がこもる。
キーワードは「追体験(ストーリー)」だという。「数学者が定理を発見する過程を、子どもたちと一緒に追体験します。先に答えを教えると、ただ事実を鵜呑みにするだけになりますから。まずはやる気に火をつけることが大切」。歴史漫画も、ただ人物名や年号を覚えるだけの学習にならないよう、同じ趣旨で活用している。
宝槻さんら3兄弟は、子どもの頃、父親が買いそろえた歴史漫画を片っ端から読破して、歴史の面白さに目覚めた。どれも父親が子どもの興味の種を見つけるため、奔り回って集めたものだった。
自宅の壁面を歴史漫画や本、名作映画のビデオで埋め尽くした父親は、常識を飛び越えた教育方針を持っていた。息子たちの知的好奇心を刺激する一方、毎日学校に行くことにはさほど重きを置いていなかったのである。空いているし安いからと、学校を休んで家族で海外旅行をしたこともあるほどだ。
「高校をやめたい」「いいよ!」
そんな自由な家庭で育った宝槻さんは、高校に進学した途端、強い違和感を覚えた。そこは地方の進学校で、大学受験だけを重視していたためだ。「高校では読書禁止、恋愛禁止と言われました。そんなのはおかしいと思いました。心を動かさないってヘンだろう、って」。入学後、間もなく「高校を辞めたい」と言うと父親はあっさり「いいよ」と返した。
高校を辞めてからは膨大な時間を読書や映画鑑賞につぎ込んで、社会的な関心を養いながら将来を考えた。そのうえで、大学進学のための受験勉強にも打ち込んだ。小さい頃から「京大にはあこがれがあった」こともあり、宝槻さんは、父親のアドバイスも受けながら自宅で勉強。見事、京大の門をくぐる。兄の姿を見た次男も三男も、同じように高校へは行かず京大へ進んだ。
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