続いて、三男からはこんな回答が返ってきた。
「グローバル教育というと、英語教育の議論が多いと思います。うちの家庭教育はその逆でした。父親は教育熱心ではあったのですが、小中学生のときに英語をやらせるというようなことはまったくしませんでした。ちなみに『学校の英文法主義は英語の勉強をパズルのようにしてしまうから、いっさいやるな』とも言われていました。
父親流はこうです。『おまえらの世代は、将来、海外で仕事をする。だから、国語を徹底的にやれ。それと数学。この2つをまずやってから、あとはサイエンスと歴史を徹底的に勉強しろ。英語は後でいくらでもやれるから、やるな』。理由を尋ねると『論理的思考力や、ものごとを構造的に表現する力、そして何よりもコンテンツ力(教養)があってこその英語だ』と言うのです。
今、私はアメリカで仕事をしています。もちろん、その際、外国の方と英語で商談をするわけですが、そのときにつくづく大事だと思うのが『何を話すか』です。それをないがしろにして、ただ流暢に話せるだけでは何の役に立ちません。自分が『グローバルに通用している』とはまだまだ思いませんが、少なくとも家庭教育の学びは、今の自分の『グローバルな一面』につながっています」(三男)。
家庭教育に、本物のイノベーションを
家庭の中で学ぶことの楽しさを知り、京大に進学した3兄弟――。彼らを支えたユニークな家庭教育は、今の日本の公教育に漠然とした不安を抱く親を勇気づけてくれる。それは、学校選びや「グローバル○○」という、新しいカリキュラムの情報に右往左往しなくていい、ということだ。
それよりも、学びの源泉である「探究心と自発性」を親が自ら家庭で育ててあげればいいのだ。歴史漫画やNHKオンデマンドで入手できる映像作品、名作など、普通の家庭が入手できる素材を使い、子どもの興味を喚起することは確かにできるだろう。
自身が運営する塾で進学実績を前面に出さない理由を、宝槻さんはこう話す。「それが、これまでの塾経営の常套手段なのです。まず進学実績で注目を集める。門をたたく子どもにはテストを受けさせ、志望校とのギャップを提示。親を不安にさせたうえでこう言う。『今のままだと、合格は厳しいですね。もっと力をつけませんか』。そして20万円の夏期講習に申し込ませる」。
それは間違っている、という根本的な問題意識が彼にはある。「学習は受験のための道具ではない。学習を通して知的感動を味わい、それ自体が目的となるものだ。また、今の親は子どもの教育を学校や塾にアウトソースしがち。でも、いったい、いつから教育は学校だけが責任を持つことになったのでしょうか。学ぶ機会は、本来、どこにでもある。僕らは、あらためて家庭教育の可能性に注目している。学校や塾に頼らなくても、学ぶことの楽しさを子どもが実感でき、学校を卒業して大人になってからも学び続ける意志と力を育むような、そんな環境を増やしていきたい」。
現在、探究学舎は東京と関西に3拠点。今後、それを大きく増やすつもりはない。だから自分の塾を宣伝するのではなく、学ぶことの面白さを感じられるような、普通の家庭で実践できる方法論を、インターネットを使って伝えたい――。
学校を変えるとか、教育制度を変えるといったような、大きな物語は掲げない。むしろ「面白そう」「うちでもやってみたい」といった具合に、共感する親の輪を広げていきたいと宝槻さんは考えている。そういう素朴な正攻法のほうが、本当のイノベーションを起こせると信じているからだ。
(撮影:吉野純治)
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