少し極端に思えるかもしれない反応には、深い意図があった。
「お金持ちのお坊ちゃんで、苦労を知らない夫に、ちゃんと地に足をつけた生き方がいいという気持ちを伝えたかった」(洋子さん)。
浩二さんは名門お受験塾に通った末、幼稚舎から大学まで慶応。5歳までは海外でナニーのいる生活だった。同級生には日本を代表する企業の子どももいた。ハンサムなスポーツマンだから、当然、もてる。
ただ、洋子さんは、夫の見た目やスペックではなく、中身に引かれた。「最初に食事をしたとき思ったのは、いいかげんそうなことを言っているけれど、本当はいい人。気取っていないで本音を話せばいいのに、ということでした」。生い立ちや将来への希望など、最初のデートで徹底的に聞いた。それが浩二さんには新鮮で「こんなふうに話を聞いてくれる人は初めて」と映った。
ついに夫は、保育園の保護者会会長に
結婚5年目。さまざまな課題を乗り越えるうちに、妻も変わった。「結婚し、子どもを持ち、家庭を作り、幸せに暮らしていくためには、私自身も上っ面ではダメだと思うようになりました」(洋子さん)。
いちばん大変だったとき、結婚当時に目指していた家庭とは違う方向にいきそうだったとき、なぜ離婚しなかったのでしょうか、と問うと洋子さんは答えた。「夫を選んだのは私。子どもにとって父親は一生もの。暴力を振るうとかおカネを家庭に入れてくれない、というのでないなら、ここで自分があきらめたら、一生後悔すると思いました」。
今年度、浩二さんは保育園の保護者会で会長をする。園で仲良くなったパパと一緒に役員をやるのが楽しみだ。たばこをやめ、健康のためにジムに通い、将来は妻子と一緒に海外出張に行けるように独立起業するという夢もある。自分が本当に大切にしたいことを発見し、心から楽しいと思うコミュニティを身近なところに見つけることができた。それが前出の「妻のおかげで自分は変わった」という発言につながる。
洋子さんの望みは、5年前と変わらず今もシンプルだ。「週3回、パパに子どもをお風呂に入れてほしいです」。平日の夜を家族一緒に過ごしたい。これこそ、何が起きても揺るがなかった価値観。自分が本当に欲しいものを知り、それだけを求め続ける彼女の強さが、夫を変えた。
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