コロナ禍で急増「自分を監視したい人々」の怖さ

世界は全体主義に巻き込まれようとしている

中島隆博氏(左)と國分功一郎氏(右)は全体主義の広がりを懸念する(撮影:五十嵐和博)
中国の文化大革命や戦前の日本、ナチ・ドイツの独裁体制のような個人よりも全体を優先するのが全体主義だ。新型コロナウイルスが明らかにしたことは、これまで気づかれていなかった弊害(格差、貧困、差別、非倫理的な大量消費、制度疲弊、神話化された科学主義など)が噴出し、それらへの真剣な手当てが求められているということだ。ところが、それに対して国際的な連携を模索するよりも、国家的な統制を強める方向性が出てきている。
全体主義の渦に世界は再び巻き込まれようとしているのではないか。そうした強い問題意識を持っているのが、哲学者で東京大学東洋文化研究所教授の中島隆博氏だ。世界で注目を集めるドイツの哲学者、マルクス・ガブリエル氏との対話をまとめた『全体主義の克服』では、全体主義に代わる新しい連帯のための手がかりを提示した。
全体主義を克服するにはどうすればよいか。ヒントを探るべく、哲学者であり、東京大学大学院総合文化研究科准教授の國分功一郎氏との対談を前・後編でお届けする。

國分:今の時代は、徐々に全体主義に近づいているのではないか。中島さんはそういった問題意識のもと、ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルと対談なさいましたね。

中島:はい、彼が構築しようとしている新実在論の発想の根幹に、全体主義をどう乗り越えるのか、という問題意識があると思ったからです。

國分:その対談集『全体主義の克服』では、デジタル全体主義ということが、まず大きな論点になっていました。

中島:インターネットが普及しはじめたときに、これでデモクラシーが新たな段階を迎えるはずだと、期待をこめて言われていました。

私は、それはかなり難しいと思いました。なぜなら、私たちが日常的に生きている社会の中で民主主義がうまく深められていないときに、あんな道具を与えられたところで、うまくいくとは思えなかったからです。そんな奇跡は起きないのではないかと。

実際、奇跡は起きませんでしたし、かえって分断が深まったように思います。何かより大きなものに服従する態度がいきわたってしまったと考えています。

ネットによって自己への関心が極大化

中島:さらに厄介なのが、自己監視の問題です。人間はひょっとすると、自分にいちばん興味があり、自分のことをいちばん監視したいと思っているのではないかと思います。今回のコロナ禍でも、多くの人が正しく監視されることを求めたように思います。

インターネット技術によって、かえって個人がばらばらになった挙げ句、自己に対する関心が極大化している気がします。ネット上の遠い誰かと比較したり、過去の「自分」と比較したりしながら、自分の特徴を割り出し、それを支配し尽くしたいという欲望を強化する。

そしてこの欲望は、すぐさま他人にも向けられていきます。「デジタル全体主義」の独裁者はこうした「私」たちなのです。

こうした傾向は、コロナ禍にあってますます加速したように思います。

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