コロナ禍で急増「自分を監視したい人々」の怖さ

世界は全体主義に巻き込まれようとしている

國分:実際、中国では社会信用スコアが普及して、個人のさまざまな行動がスコア化されていますが、問題はむしろ、中国に限らず、人々がああしたことを喜んでやるかもしれないということです。

中島:そうなのです。人は喜んでやっているのです。例えばお見合いをすると、自分のスコアを見せ合って、「あなたは30点なの? 私は50点だから合わないね」というわけです。それは強制されているというよりも「自発的な強制」、つまり喜んで服従したいという強力な欲望が働いています。これをどうすればいいんでしょうか。

國分:僕が10年ほど前に書いた『暇と退屈の倫理学』という本は、一言でいうとある種の快楽主義の称揚だったんです。人は放っておいても楽しむことができない。楽しむことができないからこそ、資本主義にエサのように与えられる文化産業に食いついてしまう。

だから、学ぶことによって人は楽しむことができるようになるんだと。当時は資本主義の現状に対して、これが唯一、自分で希望を持てた方向性だったし、今も考えは変わっていません。

ただ、そのように述べるだけでもダメかもしれないとは思っています。今は文化産業ですらない、SNSのようなプラットフォームの上で、情報を消費している段階です。文化産業批判を出発点としたのではもはやメッセージが届かなくなっているかもしれない。

「軽信」と「冷笑主義」が生む危機

國分:今その特徴の一端を説明した、われわれが今生きている現代社会を考えるにあたり、僕はいつも『全体主義の起源』でのハンナ・アーレントの二つの指摘を紹介しています。どちらも20世紀初めに現れ、ドイツでは全体主義の到来を準備することとなった大衆社会における大衆のあり方に関わるものです。

「SNS上で飛び交うのは意見ではなく反応」という國分氏(撮影:五十嵐和博)

一つは「大衆は論議によって説得する必要がない」という指摘です。なぜなら「説得というものは相手がそれまで何らかの別の意見を持っていることを前提としている」から(『全体主義の起源』)。

大衆社会を構成する大衆は意見を持っていない。生まれたときからの環境の中で形作られる価値観のようなものを大衆社会は人々から剥奪した。これはむしろ現代社会を見事に言い当てている言葉だと思います。

現代はむしろ意見の対決が激しいではないかと反論する人がいるかもしれませんが、SNS上で飛び交うのは意見ではなくて“反応”ですね。学者同士のやりとりですら、SNS上では反応の連鎖ばかりが目立ちます。ある一定の条件が整うと一定の仕方で現れる生理的反応のようなものです。

そこにそれを支える信念、動かしがたい価値観のようなものはない。そして現代社会はそうしたものを欲してもなかなか手に入れられない。

もう一つは、大衆社会の大衆は何でもすぐに信じるけれども同時に何事をも信じていないという指摘です(『全体主義の起源3』)。何事をも信じていないというのは、意見を持たないということの原因のようなものです。いかなる価値観も信念もない。だから意見など形成しようがない。

だからこそ、大衆は何でもすぐに信じてしまうのですが、ポイントはこの軽信がシニシズム(冷笑主義)と一体になっているということです。

例えば「福島はアンダーコントロールです」と首相が言うとすぐに信じる。それはウソですからすぐに現実はわかるわけですが──例えば、最近、汚染水を海洋放出するという話が出ていますね──、そのことがわかっても少しも怒らない。「ああ、わかっていたよ」とシニカルに受け流す。

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