コロナ禍で急増「自分を監視したい人々」の怖さ

世界は全体主義に巻き込まれようとしている

國分:そこは哲学的には、踏み込んで議論しないといけないところですよね。例えば、子どもを虐待してはならないという価値判断は、子どもを虐待してはならないという事実から導き出せると彼は言います。

子供の虐待については確かにそう言えるかもしれませんが、はたしてさまざまな価値をなんらかの事実から導き出せるかどうかは、さらに議論を深めなければなりません。僕は彼がその点について何か考えを述べているのかどうかは知りません。

とはいえ、ガブリエルさんが価値を強調するのはすごく共感するんです。アーレントの指摘のような考えが僕の中にあって、価値が揺らいでいるというか、そもそも存在していないのが現代だと思うからです。民主主義がある意味でモンスター化していることが背景にあるかもしれません。

古代ギリシアで、デモクラシーという言葉は悪口だったわけです。そんなものは、だらしのない民衆どもによる支配であると。

現代のデモクラシーがそういう悪しき民衆主義にどんどん近づいていることは、もう大勢の人が指摘していることです。「自分は民主主義的に選挙で選ばれたのだ、その自分が憲法の解釈を定めて何が悪いのか」という日本の前首相の言葉は、そのような最悪の意味での民衆主義的感性の現れであったろうと思います。

インターネットは情報の過激な民主化だった

國分:『全体主義の克服』の中では、技術の問題が繰り返し取り上げられています。インターネットはある意味で情報の過激な民主化でした。誰もが情報を発信でき、誰もが情報を受信できる。

しかしそれによって、信頼できるものかどうかという情報の価値のランクは一挙にフラット化され、誰が書いたかわからないブログ記事と、出版社の編集と校閲を経た書籍の違いもあやふやにされるようなことになった。憲法のような最高法規が曲がりなりにももっていた権威が驚くべきスピードで失墜していったことの背景には、あらゆる情報のフラット化という事態があると思います。

人々が自然と認める権威と権威主義というのは違うので、民主主義社会を運営していくためには最低限の権威が価値の共有のために必要だと思うのですが、それがなし崩しになってしまった。これをどうしたらいいのか、ここ数年ずっと考えているんです。

中島:おっしゃる疑問はよくわかります。ガブリエルさんと対談して、近代が練り上げてきた価値を、ある仕方でもう一回擁護し直さなければいけないという彼の態度を強く感じました。

國分さんもそうでしょうけど、私も、フランス現代思想を中心に読んできました。そうすると、近代というものに対して、どういうスタンスを取ったらいいのかということがつねに問われるわけですね。しかも、私は中国の哲学や思想もやってきましたので、当然、オルタナティブ・モダニティー(もうひとつの近代)、複数の近代という問題にもぶつかります。

ヨーロッパ的な近代だけじゃなくて、日本的な、あるいは中国的な近代も可能だという形で、いわゆる西洋近代の相対化が進みました。それは、一方で重要な西洋近代への批判的な意味がありましたが、他方で、近代的な価値を洗練していくプロセスが弱くなった面もあったと思います。

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