ロボット義足、MITイノベーターの夢 「グローバル人材」たちの苦労と葛藤(3)

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成功を望むなら

では、成功を渇望する若者は、いったい何をすればいいのか。本シリーズで描いた5人は、職種も専門分野もさまざまだが、留学経験を足掛かりに、それぞれが目指すゴールへと、一歩ずつ着実に歩を進めている人たちだ。彼ら、彼女らの共通項とは、いったい何だろうか。僕には、その答えはこの上なく単純なものに思える。

苦労と、努力だ

彼らは現代の二宮金次郎のように、ただ真摯に、愚直に、勉強や研究を頑張っていた。英語のハンデを背負いながら、そんなことはお構いなしに出されるとても消化しきれないほどの量の課題を、毎晩夜遅くまで必死になってこなしていた。週末も祝日もなく研究室で実験をしていた。

もちろん、世の中には類いまれな幸運や才能を持っていて、魔法のように成功を手にした人がいる。そんな人が説く、たとえば「1日15分の勉強で英語がペラペラになった」「株投資で簡単に1億円稼いだ」「週4時間働くだけで夢の暮らしを得た」。そんな安易な話に世間は飛びつく。

目を覚ましてほしい。類いまれな幸運や才能を持っていない僕たち凡人には、そんな宝くじに夢を託すような生き方は決して通用しない。もちろん、彼らから学び取れるコツは存在するだろう。だが結局、僕たちは、レンガを積むがごとく、一歩一歩、地道に、不器用に、目の前にある勉強や、研究や、仕事を頑張るしかないのだ。それは海外に出ようと、日本にとどまろうと、変わりはないのだ。

自分は何のために頑張るのか?

努力は成功のための必要条件。それは誰にだってわかっていることだろう。だが、もっと大きな問題は、どうすれば努力を継続できるのか、である。

人間は元来、怠惰な生き物だ。僕も「情報収集」なんぞを自分への言い訳にして、仕事中にネットサーフィンをしてしまうこともある。今回のシリーズで紹介した5人だって、世間では「エリート」だと思われているかもしれないが、酒を飲ませればただの人だ。愚痴もこぼすし、悩みや迷いもあるだろうし、怠惰な面だってある。彼ら、彼女らが心折れず努力を継続できる力は、いったいどこから湧いてきたのだろうか。

それは「夢」だ。「志」と呼んでもいい。「信念」「情熱」や「野心」とも呼ぶことができよう。そんな言葉を使うのが気恥ずかしければ「目標」でもいい。時代や流行が移ろっても、心の中で北極星のごとく動かぬもの。自分はこのために頑張るのだ。自分はこのために生きているのだ。自分はこれを成すまでは死ねないのだ。そういう強烈な思い、心を突き動かす衝動、夢への渇望、それこそが、元来は怠惰な人間に、ひたむきに努力を重ねる力を与えるのだ。 

成相さんには、自分が好きなITを用いて世の役に立ちたいという志があった。
橋本さんには、「松坂よりも先にメジャーリーグに入ってやろう」という目標があった。
櫻井さんには、「子どもたちが犠牲になる不条理な世界を変えたい」という信念があった。
Tさんには、プロダクトデザインへの情熱と、アフリカの文化への深い興味があった。
遠藤さんには、「自らの技術で親友の足を取り戻したい」という夢があった。

それこそが、彼ら、彼女らが言葉の壁で苦しんだときにも心折れず頑張る力を与え、将来に迷ったときにも道標となったのだと思う。もちろん、夢を持てば誰でも成功できるわけでは決してない。だが、それがなくては、何もできない。

草木が太陽を目指して生長するように、人間にも目指すべき夢が必要なのだ。それを持つか、持たないか。それこそが、グローバルうんぬんよりも、はるかに重要で、はるかに本質的なことだと思う。

僕は決して若者が海外を目指す事を否定したいのではない。日本国内で成すべき志があるならば、グローバル人材ブームなんて気にせず、胸を張って日本に残ればいい。海の向こうに夢があるならば、躊躇せずにこの島国を出ればいい。僕が言いいたいのはそういうことだ。 

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