宇宙一孤独な人工物、ボイジャーの秘密 JAXAではなくNASAに行きたかった理由、幼年時代のヒーロー

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世界の理系エリートが集まる米国トップスクールMIT(マサチューセッツ工科大学)。そこには、どんな学びがあるのか? 6年半の留学の後、紆余曲折を経て、夢のNASAジェット推進研究所に職を得た著者が、 『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』 刊行を記念して大好評連載を一時復活!!

どうしてJAXAではなくNASAに行きたかったのか

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今回出版された僕の著書のカバーには、青い海王星の写真を背景に、一機の宇宙船が描かれている。

「ボイジャー」、日本語に訳せば「旅人」という名を持つ無人宇宙探査機だ。その名のとおり太陽系の星々を旅し、地球を旅立ってから35年後の2012年8月、ついに太陽系の果てまでたどり着いた船である。

ボイジャーは現在もおよそ時速6万キロもの速さで飛んでいるのに、35年もかかるとは、いかに太陽系は広いことか。

ボイジャーの太陽系脱出のニュースは日本でも比較的大きく報じられたようなので、記憶に残っている方も多いだろう。

どうしてJAXAではなくNASAに行きたかったのかと、僕はよく聞かれる。日本に残ることが嫌だったからでは決してない。ただ純粋に、子供の頃にあこがれたヒーローが生まれた地で働きたかっただけだ。

たとえば江夏や新庄にあこがれた野球少年は、将来、阪神タイガースに入りたいと思うだろう(ちなみに僕は阪神ファンで、新庄が贔屓の選手だった)。僕の子供の頃のヒーローは、ボイジャーだった。だから、将来はボイジャーが生まれたNASAジェット推進研究所(JPL)で働きたいと思った。ただそれだけだった。

その夢を叶えるまでの道は真っ直ぐではなかったのだが、その話は著書にさんざん書いたので割愛する。今回の記事では、このボイジャーについて、とことん語らせてもらおうと思う。

最も「NASAっぽい」場所の役割とは?

JPLを見学に訪れると、上の写真にある部屋に連れて行かれる。扇状に並べられた管制用のコンピュータ、宇宙船の状態を表す数字が並んだ大きなスクリーン、そして壁に掲げられたNASAのエンブレム。観光客にとっては、おそらくここがJPLで最も「NASAっぽい」場所かもしれない。

この部屋はディープ・スペース・ネットワーク(DSN)の管制室である。DSNとは、宇宙探査機と交信するために、カリフォルニア、スペイン、オーストラリアに設置されたアンテナから成るネットワークだ。

なぜ地球のさまざまな場所にアンテナを設置する必要があるのか。もしアンテナが1箇所にしかなかったならば、たとえば月にいる探査機と交信ができるのは、その地点で月が昇っている時間に限られてしまう。太陽系のさまざまな場所で稼動している探査機と24時間の交信を可能にするために、約120度ずつ経度が隔たった3箇所を選んでアンテナを設置したのである。

ただ「アンテナ」といっても、携帯電話のものとはわけが違う。DSNの最も大きなアンテナは直径が70メートルにもなる。太陽系の果てにある探査機から届く微弱な電波をキャッチするには、これだけの大きさが必要なのだ。DSNはNASAの探査機のみならず、協力関係にある海外の宇宙機関の探査機の運用もサポートしており、たとえば日本のはやぶさもこれを利用した。

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