宇宙一孤独な人工物、ボイジャーの秘密 JAXAではなくNASAに行きたかった理由、幼年時代のヒーロー

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子供の頃、自分にとってのヒーローがいたならば

JPLに就職して4カ月後の2013年9月、NASAが宇宙開発の歴史に間違いなく残るだろう重大な発表を行った。ボイジャー1号が、太陽圏の境界とされているヘリオポーズを通過したことを、正式に確認したという発表だった。「ボイジャー太陽系脱出」と日本のメディアでも大きく報じられた。

(注:どこが太陽系の終わりなのか定義が難しいため、正確には「星間空間(interstellar space)に入った」という表現が使われる。また、実際にヘリオポーズを超えたのは2012年8月であることがわかっている。)

そして、このニュースをJPLの中で聞くこととなった僕の感慨がどれほど大きかったか、察していただけるだろうか。

もしあなたに子供の頃のヒーローがいたならば、そしてその人に対するあこがれを今でも失っていないならば、きっと自分の人生をそのヒーローの生きざまに重ねてみたことが、あるのではなかろうか。

僕にとってのヒーローは、ボイジャーだった。人生を機械に重ねるとは変な話に聞こえるかもしれないが、しかし僕は、これまで自分がたどってきた道のりを、ボイジャーの旅と重ねずにはいられないのだ。ボイジャーは宇宙の果てにあこがれ、35年かけて太陽系の果てにまでたどり着いた。ボイジャーにあこがれた僕は、30年かけて、その生まれ故郷であるJPLにたどり着いたのだ。

とはいえ、太陽系の出口はさらに広い宇宙への入り口でしかない。同様に、僕にとってJPLに入ったことは、これからの長いキャリアの出発点でしかない。ボイジャーの旅は続く。僕の旅もまだまだ続く。

JPLにある、探査機を組み立てるためのクリーン・ルーム。ボイジャーもここで組み立てられ、宇宙へと飛び立っていった

 

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小野 雅裕 NASAジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)技術者

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おの まさひろ

1982年大阪府生まれ。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程修了。2012年より慶應義塾大学理工学部助教。2013年より現職。火星ローバー・パーサヴィアランスの自動運転ソフトウェアの開発や地上管制に携わるほか、将来の宇宙探査機の自律化に向けたさまざまな研究を行なっている。阪神ファン。好物はたくあん。主な著書は、『宇宙を目指して海を渡る』(東洋経済新報社)。

ブログ: onomasahiro.net/
Twitter: @masahiro_ono

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