なお太陽系から遠ざかり続けているボイジャー
さて、ここでボイジャーの形に注目してほしい。最も目立つのは、白く大きなお椀状のパラボラ・アンテナだろう。太陽系の果てから地球と交信するには、ボイジャーの側にも大きなアンテナが必要なのだ。なんとなく、大阪の祖父母の家の近くにあった太陽の塔の顔を思い浮かべる。
ちなみに、ボイジャーはこの「顔」をつねに後ろ向きにして飛んでいる。(つまり進行方向はこの図では左である。)地球から遠ざかる方向に飛び続ける一方、アンテナはつねに地球に向けておく必要があるからだ。
ボイジャーには何本かの足、またはツノのようなものが生えていることにお気づきだろう。上の写真で、アンテナから下方に伸びた、黒い円筒形の「足」は、Radioisotope thermoelectric generator (RTG; 放射性同位体熱電気転換器)と呼ばれる発電機である。
ちなみにRTGは「原子力電池」と誤訳されることがあるが、原子力発電とは以て非なるものである。原子力発電とは核分裂の連鎖反応から膨大なエネルギーを取り出すものだが、RTGは自然崩壊によってじわじわと発散される熱を電気に変えるものだ。だから原発のように膨大な電力は得られない。
発電量は打ち上げ時で470ワットで、家庭用ドライヤーの消費電力の半分でしかない。宇宙探査機が使える電力は案外少ないのだ。
頭の上に生えているツノにはカメラなどの観測機器が載っている。右下に伸びるひときわ長い足の先端には、磁気センサー、つまりコンパスが取り付けられている。これはボイジャー本体の電子機器が発生させる磁場からの影響を避けるためである。
ボイジャーのカメラは現在は電源が切られている。発電機の出力が減ってきたことに加え、たとえカメラを使っても、もはや撮るものがないからだ。ボイジャーはあまりにも遠くにあるため、いかなる惑星も、太陽ですらも、ほんの小さな点にしか見えない。島影ひとつ見えない大洋に浮かぶ小舟のようなものなのだ。
そしてなお、ボイジャーは太陽系から遠ざかり続けている。次に近くを通る星はきりん座のグリーゼ445(AC+79 3888)だが、「近く」といっても1.6光年もの距離を通過するだけで、それも約4万年後のことだそうだ。地球から最も遠くにある人工物であるボイジャーはまた、最も孤独な機械なのかもしれない。
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