親友の足を取り戻すために
僕と同期でMITの博士課程に入学した日本人は2人しかいなかった。そのうちのひとりが遠藤謙さんだった。僕より4つ年上で、すでに結婚しており、見上げるほどの長身だった。
だが、長身の男性が多かれ少なかれ持つ威圧感は、彼のいい意味での子供らしい無邪気さによって打ち消されていた。たいてい革靴ではなくスニーカーを履き、シャツではなくパーカーを着ていて、MITのキャンパスよりも運動場で走っていそうなタイプの人だった。
そして彼は外見にたがわずスポーツマンだった。漫画「スラムダンク」が彼の子供時代の聖書だったそうで、中学、高校から大学までバスケットボールに打ち込んだ。留学前は慶應大学の博士課程で人型ロボットの研究をしていた。
だがその頃、彼のバスケ仲間だった高校時代の親友が、骨肉腫を患い、ひざ上から足を切断するという出来事があった。
入院中の親友を見舞った際に、遠藤さんが作った二足歩行ロボットの動画を見せたことがあった。すると、その親友がふと「自分の足で歩きたい」とつぶやいたそうだ。彼はある種の無力感を感じずにはいられなかった。自分は人のまねをするロボットを作ることに精魂を注いでいるのだが、それでいったい誰を助けられるのだろう、と。
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