大坂なおみに「共感する女性」が口々に語る理由 彼女が訴えているのはBLM問題だけではない

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この背景には、BLMに対する根深い誤解があるとブランディさんは感じている。そこで、彼女は時間があるときに地元の高校を訪れ、BLMの背景などについて話している。

「日本人のBLMへの認識は、他人事、他国事という意識がかなり強い。黒人の血が流れている人は日常的に差別や偏見を感じているので、こうした事実をこれからも共有していきたい」とブランディさんは語る。

「ハーフ」に対する偏見が原動力に

2016年度ミスワールド日本代表の吉川プリアンカさんは、自身の化粧品ブランド「MUKOOMI (ムコーミ)」の創設者兼CEOとして活躍するかたわら、自身の立場を利用して、やはり日本人に潜む差別意識の改善に取り組んでいる。

インド人と日本人を両親に持ち、初めてのハーフのミスワールド日本代表となった吉川さんの場合、自身と同じような境遇にある日本人の仲間が陥りがちな問題が活動の原動力となっている。その問題はまた、日本が抱える問題でもある。その根本はBLM問題と同じで、社会が少数派に寛容になれないことにある。

すべての人が同じレンズを通して見られるようになるまでは、ハーフの日本人は今後も日本で「異人種」と見られ、BLMはいつまでも理解されにくいままとなる、と吉川さんは語る。

「なおみさんがBLMの抗議運動に参加した時、日本の人々はそれがどんな意味を持つのかよくわかっていなかった。世界のどこかで何かが起きていても、誰かが襲われたり、殺されたりしていても『自分には関係ない』という人々がいる。

だが、それはナンセンスだ。私たちアジア人だって実際に差別を受けていることを、多くの人は知らない。なおみさんが究極的に何を求めているかはわからないが、彼女がマスクをすることが人々の意識を高め、会話を促し、問題に対する理解を深めることになればいいと思う」

今後どんな変化が起こるのか、あるいは起こらないのか、現時点で予測するのは難しい。だが、大坂のように能力と人格を備えた女性たちによって、「変えることは可能なのだ」という信念が日本の女性たちの中に芽生えつつある。

矢島さんの母校名の基となった教育者、メアリー・マクロード・ベスーンはかつてこう言った。「国民の真価はその国の女性たちの人間性によって測られなければならない」。日本がこの考えを心に刻めば刻むほど、そして日本の女性たちに世の中をリードさせればさせるほど、日本に暮らす少数派や社会から忘れられた人々の状況は改善するのではないだろうか。

バイエ・マクニール 作家

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Baye McNeil

2004年来日。作家として日本での生活に関して2作品上梓したほか、ジャパン・タイムズ紙のコラムニストとして、日本に住むアフリカ系の人々の生活について執筆。また、日本における人種や多様化問題についての講演やワークショップも行っている。ジャズと映画、そしてラーメンをこよなく愛する。現在、第1作を翻訳中。

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