失敗か成功か、8年弱のアベノミクスで得た教訓 ポスト安倍政権が踏まえるべき5つのグラフ

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国債費の抑制は結果的に、アベノミクスが税収増の目標を含めて想定どおりの成果を上げられなかったにもかかわらず、財政健全化では一定の成果を上げる主因になった。図5のように、コロナ危機が襲った2020年度とその前の2019年度を除けば、対名目GDP比の基礎的財政収支(借金にともなう歳入・歳出を除いた収支)の推移は当初想定から遠くない。

新型コロナウイルス感染症対策費が膨張した2020年度はある程度致し方ないと言えるが、2019年度の基礎的財政収支が悪化したのは、消費税率を8%から10%に引き上げたとき、増収分の使途の一部を借金返済から幼児教育無償化などに変えたためだ。安倍政権の後半では、経済財政運営でも緩みがあったと言えるだろう。

アベノミクスの帰結は予想されていた?

異次元金融緩和という壮大な社会実験を8年弱にわたって続けたアベノミクスだが、そこからどんな答えが見てくるだろうか。実は、筆者は週刊東洋経済2013年1月26日号の第2特集「アベノミクスの危うい綱渡り」で、次のように行方を予想していた。

こうしてみると、アベノミクスが成功するためには、やみくもに財政支出を増やし、景気を刺激すればよいのではないことがわかる。景気は過熱しすぎない程度に浮揚させて金利や利払い費の増加はほどほどに抑え、金利水準を上回る名目GDPや税収の増加を達成するという絶妙なバランスが求められるのだ。もし景気が過熱し、日銀のコントロールできない金利上昇を招けば、アベノミクスは挫折どころか、利払い費上昇による財政困窮化を招く。
ほどほどの景気回復と低金利の維持の同時達成は案外、実現可能かもしれない。人口減少が続く日本では、デフレを脱却したとしても低成長にとどまり、それなりの低金利を維持できる可能性があるからだ。
ただそのとき、低いままの利払い費に安住した政治が国債累増への認識を曇らせたらどうなるか。ある意味で今の日本がすでにそうかもしれないが、これこそが日本の抱える本質的なリスクだろう(「国債増発でも利払い費は抑制、綱渡り財政の行くつく先は?」)。
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目下、コロナ禍で落ち込んだ経済をいかに立て直すかが政治の最大の課題だが、政府の雇用調整助成金拡充もあり、今のところ雇用の悪化は一定水準に抑えられている。ポスト安倍政権にとっては、量の面で想定以上に需給が引き締まった雇用の構造をどう日本の成長力強化につなげていくか、金利の上昇を抑えられている間に、いかに財政健全化の道筋を付けていくかが重要になる。8年弱に及んだアベノミクスから得られた教訓は無駄にすべきではない。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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