仕事しかしない男が定年後に後悔しても遅い訳 先延ばしにできなくなった男性の働き方の議論

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すでに述べたように、日本では「男性は学校を卒業後はすぐに就職し、定年退職まで働き続けなければならない」という「常識」が根強く、男女の賃金格差も大きく、そのため男性の目の前には「働くしかない現実」があります。

その一方で、男性が「働いてさえいればいいという意識」を持っていたのもまた事実ではないでしょうか。「働くしかない現実」と「働いてさえいればいいという意識」は相補的な関係にあり、仕事を中心とした男性の生き方を強固なものにしてきたのです。

定年退職したばかりだった男性との印象的な会話があります。インタビューではいつも「40年間働いて、どうでしたか」と聞いているのですが、その男性は「あっという間で残念です」と答えたのです。「どうして残念なんですか」と続けたところ、「人生を80年と考えると40年はその半分です。それがあっという間だったのは残念です」と返ってきました。

当時私は30代になったばかりでしたが、「40歳までの10年間なんてあっという間だから僕の言ったことを忘れないでほしい」と言われたことをよく覚えています。年々、その言葉は重みを増し、今年で45歳になる自分には深く納得させられるものとなっている言葉です。

コロナ禍で変わるしかない生活、人生を考える

これまでの社会では、その時になってからでは遅いということに気づけず、男性は定年退職してからようやく仕事中心の生活について振り返ることができたわけです。新型コロナウイルスの感染拡大によって、働き方をめぐる議論が活発になっている状況は、定年を待たずに立ち止まって自分の生活や人生について考える機会を提供しているように感じています。

ぜひこれを読んでいるみなさんにも、会社で働くようになってから今までの時間の流れをどう感じるか考えてみてほしいのです。これまでの10年、20年があっという間であったならば、次の10年、20年も同じようにあっという間に過ぎていくに違いありません。

最後にひとこと、付け加えておきたいことがあります。通常、社会の変革はそれに伴う痛みを計算したうえで実行されなければなりません。今回の事態が、テレワークを含めた多様な働き方の実現を促進し、男性の仕事を中心とした生き方を見直すきっかけになったとしても、とてもではありませんが、社会全体が被った痛みに見合うものであるとはいえません。

ここで展開してきた議論は、あくまで新型コロナウイルスの感染拡大は起きないほうがよかったけれど、起きてしまった以上どうしたらいいのか、を考えたものです。

 

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田中 俊之 大妻女子大学人間関係学部准教授

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たなか としゆき / Toshiyuki Tanaka

1975年生まれ。2008年博士号(社会学)取得。武蔵大学・学習院大学・東京女子大学等非常勤講師、武蔵大学社会学部助教、大正大学心理社会学部准教授を経て、2022年より現職。男性学の第一人者として、新聞、雑誌、ラジオ、ネットメディア等で活躍している。

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