72時間がタイムリミット
海外には、国内には存在しない命にかかわる感染症がいろいろある。しかも、初期の段階では「風邪」と思われるようなことがあり、感染症に精通した医師でないと治療が遅れることにもつながる。その代表格ともいうべきなのがマラリア。蚊を媒介としたマラリア原虫の感染症で4種類ある。いずれも、高熱と頭痛、関節痛といった風邪のような症状から始まり、4種類のひとつ「熱帯マラリア」は、脳症や腎症などの多臓器不全という重篤な事態に結び付く。
「マラリアは3日間程度で一気に重症化するため、およそ72時間が治療開始のタイムリミットです。マラリアには治療薬があるため、適切に対処することが不可欠といえます。タイムリミットを過ぎても治療が行われないと、1週間程度で亡くなる人もいます。ただし、一般の医療機関では診断が難しい。国内では珍しい病気だけに、風邪やインフルエンザと間違われやすいのです。帰国後に高熱が出たならば、下痢のときと同様に、専門の医療機関を受診するようにしてください」(水野准教授)。
6月にFIFAワールドカップを開催するブラジルにも、アマゾン河流域などには、マラリアを持つ蚊が存在する。また、地域によっては、蚊を媒介とする「黄熱」にも気をつけなければならない。感染すると、やはり高熱、頭痛、筋肉痛などの症状から始まり、重症化すると、黄疸(おうだん)、鼻血や下血などの出血症状も伴う。黄熱にはウイルスに対する有効な治療薬はないため、予防のための黄熱ワクチン接種が重要とされている。
熱と発疹のときは早めに受診
中南米や東南アジア、アフリカ諸国などでは、蚊を媒介とするデング熱やチクングニア熱などの感染症が、毎年、流行している。
「デング熱も、チクングニア熱も、急な発熱の後で赤い発疹が出るのが特徴です。また、チクングニア熱は、一般的にデング熱よりも症状は軽いのですが、指が痛い、手首が痛い、腰痛など、関節痛が特徴的です。黄熱やマラリアほど、急激な危機的状態に陥ることは少ないと言われていますが、現地で知らぬ間に感染して、国内にデング熱やチクングニア熱の病原体を持ち込んでしまうこともあるため、専門家の間では危惧されています。現地での虫除けに努めると同時に、帰国後の症状を見逃さないでいただきたいと思います」
こう話す水野准教授は、2006年に国内で初めてチクングニア熱の輸入感染症例を報告した。日本では、近年、デング熱について200例以上の輸入感染症例もある。それは単に本人が体調を崩すだけでなく、日本にもいる蚊を媒介として、家族など周囲の人へも感染を広げることに結び付く。昨年は、日本から帰国したドイツ人が、母国でデング熱を発症し、日本で感染したと疑われた事例があった。
「いちばん注意しなければいけないのは、海外の感染症を国内に持ち込まないことです。現地で虫除け、生食や生水の摂取を控えるなどして、予防に努めましょう。そして、帰国後に体調不良になった場合は、放置しないようにしてください。空港に着いて体調が悪いときには、ターミナル内の検疫所(健康相談室)に相談することがなによりです。また、自宅に帰ってから発熱や下痢の症状が出た場合は、とりあえず1~2日程度様子を見て、改善しなければ専門の医療機関を受診しましょう。感染症の中には、潜伏期間が長いこともあります。1~2週間経って症状が出ることもあるので、その場合も、短期間で症状が改善しないようならば、早めに医療機関を受診することが重要です。予防の徹底と早期受診が、危険な感染症から身を守る最善策と考えてください」と水野准教授は話す。
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