中野:ロックダウンの経済破壊力が大きいことは、公衆衛生関係の人たちも皆知っているでしょう。それでもロックダウンをするのはなぜか。それは、早く感染拡大を収束させることで、結果的に、経済へのダメージも小さくできるからでしょう。
西浦先生の試算が示していたのも、「接触を8割削減すれば短く済む。7割削減だともうちょっと長くなり、6割だとさらに長く頑張らなければいけない」というものでした。厳しい措置を短期間だけやるほうが、緩い措置を長期間やるよりも、経済的なダメージは小さいという判断ですね。とくに、休業補償など財政支援を手厚くするならば、なおさら前者のほうがよいでしょう。
柴山:このウイルスが出回った当初は、まだ致死率なんかがわからなかったわけで、パニックを抑えるためにも緊急事態宣言をやって、感染収束を最優先するという考え方はわかります。ただ、ロックダウンによって感染者がどれくらい減るかだってわからない。
ロックダウンが長期化した場合、経済や社会にどれほど深刻な影響がでるのか、また解除の基準をどこに設定するのかもあわせて考えないといけない。ただそれは専門家会議より、政府の上のほうが考えるべきことでした。
専門家会議に注文があるとすると、もしコロナが想定された水準よりも弱毒だとわかったら、すぐに行動制限の緩和を要請するということをやってほしいですね。そうでないと、みんなが「コロナ怖い」モードに入ってしまっている中で、簡単には自粛レベルは下げられない。
確かに初動では危険レベルを高く設定するのがリスク管理のセオリーとしても、「これはそこまでではない」となった瞬間にすぐに設定を下げるようにしないと、経済へのダメージがどんどん大きくなってしまう。
緊急事態宣言を再発出しない理由
中野:専門家会議ももちろん、緊急事態宣言を必要以上に続ける気はまったくないでしょう。もともと緊急事態宣言は、ソーシャル・ディスタンスをとって新規感染の拡大を抑えて時間を稼いでいる間に、ベッド数を増やしたり、軽症者の隔離施設を確保したりして、対コロナでの医療のキャパシティーを上げていこうという戦略だったわけです。それができれば感染者数が増えても、厳しい措置をとらなくてもよくなる。
7月以降、4月時点以上に感染者数が増えているのに緊急事態宣言を再発出しない理由も、そこにあります。すべては医療のキャパシティー次第で、それを引き上げるための時間を稼ぐために緊急事態宣言をし、さらに延長をした。
「専門家会議は経済無視で感染症退治のことだけ考えている」と批判をする人がいるけれども、それは間違いです。彼らは医療と経済の両方を気にしていたし、だからこそ、厳しい措置を唱えて短期間で終わらせようとした。また、西浦先生は「政府は休業補償などの経済的な措置をやってほしい」と言っていました。
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