「専門家会議は経済無視」批判が誤っていた理由 「不確実性」が突出していた新型コロナ危機

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中野:「パンデミック不確実性指数」という指数があります。パンデミックにまつわる不確実性、つまり正体不明である度合いを指数化したものです。

中野 剛志(なかの たけし)/評論家。1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学工学研究科大学院准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』『世界を戦争に導くグローバリズム』(ともに集英社新書)、『国力論』(以文社)、『国力とは何か』(講談社現代新書)、『保守とは何だろうか』(NHK出版新書)、『官僚の反逆』(幻冬舎新書)などがある。(撮影:今井 康一)

実は、今回の新型コロナウイルスは、過去のSARSやエボラ、MERS、新型インフルエンザなどと比べても、不確実性指数が圧倒的に高かったんです。感染力や毒性では、ほかのウイルスのほうが恐ろしいかもしれないが、不確実性という点では新型コロナウイルスは突出していた。これが、新型コロナウイルスの最大の怖さです。

例えば、最初は、高齢者等の重症化率が高いけれど若者はほとんど軽症なので、それほど心配しなくていいように言われていましたが、その後、重症化しなかった若者でもつらい後遺症が残ることが分かってきた。最初のうちは「集団免疫を獲得すればいい」と唱えていた人もいましたが、最近では「一度抗体ができても数カ月で消えてしまう」という研究が出ててきた。ワクチンにしても、いつできるのか、本当に作れるのかどうかもわからない。変異するかもしれないという不確実性もある。

そういう得体の知れないものに立ち向かったという視点から見ると、専門家会議はよくやったと思います。いろんな情報が飛び交い、何が正解なのかわからない中で、なんとか第1波を乗り切ることに成功した。これはすごいことです。

そこに思いを致さないと、新型コロナウイルスの正体がある程度わかってから後知恵でやった批判や反省などは、次に変異したコロナによる第2波が来たり、コロナ以外のウイルスによるパンデミックが起きたときには、何の役にも立ちません。

ロックダウンできなかったハンディへの克服

佐藤:事後検証自体は大いに結構。問題は、検証の必要性を説く人の多くが、危機管理の基本を知らないとしか思えない言動を平気ですることです。感染症に限らず、こういうときは「ミニ・マックス法」で対処するのが鉄則。最悪の事態を想定し、その場合でも結果が最善となるように行動することですが、ならば専門家会議のやったことは正しい。ところが後知恵批判組の大半は、「ここまで最悪の事態を想定しなければ、結果はもっとよくなっただろう」と文句をつけている。

中野:加えて日本の場合、「ロックダウンができない」というハンディがありました。行動制限を強制できない。だから、自主的な行動変容を促さなければいけなかった。これは非常に難しい。結局、啓蒙するしかないわけです。専門家会議のメンバーや西浦博先生は何度も記者会見して接触機会の削減や外出自粛を訴え続けていましたが、あれはそういう難しい状況をマネージするために、前面に出ざるをえなかったんです。

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