憧れの田舎暮らしで起きた「想定外」の非常事態 自宅農園で自給自足生活と張り切っていたら

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さらに池井さんは、「条件のいい平地でも3年。中山間地はそれ以上に厳しいかと思う。獣害のあるところは農作物も規模も制約がかかるので絶望的だ」と獣害対策の難しさを訴える。

周辺を案内してもらっていた白昼、獣害のおそろしさを感じさせる光景に出くわした。サルの約30頭の群れが集落で作物を食い荒らしたり、民家の屋根に登ってくつろいだりしていたのだ。近寄っても警戒するだけで逃げる気配はない。

「人間は大した存在ではないとバカにしている」

「かつての野生動物は厳しい生活の中で、木の実を食べたり、空腹に耐えたりしていた。20年前は今ほど獣害が存在しなかったが、動物が食べ物の味を覚えてしまった。今や平地が餌場になり、警戒心がなくなった。人間は大した存在ではないとバカにしている」と池井さんは話す。

「高齢者、子ども、女性の存在は気にせず、近くで悠然と食べている。サルは迫力で押さないとダメだが、逆に高齢者はサルを怖がっている。農業をやる人が少なくなり、そもそも住民が減って空き家が目立ち、サルを追い払う人がいなくなってしまった」。獣害問題は、過疎化の進む農山村の問題でもある。

とくに獣害で作物を防御するのが難しいのがサルである。「サルは人間の食べ物が全部好き。とくにトウモロコシや枝豆、かぼちゃ。食べないのはトウガラシやピーマン、にんにくぐらい。ところが、ピーマンの品種改良が進み、甘みが増してサルも食べるようになった。食べ物が少ない冬になると、いろいろなものを狙ってくる。

集落の屋根の上に陣取るサルの群れ=岐阜県大垣市(写真:筆者撮影)

サルの群れのボスは、いつどこで何が食べられるかをインプットしている。こうした情報を覚えているかどうかがボスになれるかどうかの基準の1つ。群れに安全な場所で食料を提供できるかが評価基準になっているのだろう。1年前のこの時期、いつどこで何が植わっていたかも覚えており、収穫の数日前にやってくる」(池井さん)

池井さんによると、サルの獣害に遭わないためには、畑全体を上部も含めて囲わないと無理だという。電気柵をしても、近くに木や電柱があれば、そこから畑に飛び込んでくる。フェンスもナイロン製の網を使えば、2〜3年で素材が弱り、サルは破って入ってくるというから厄介だ。

筆者が悩まされたシカによる被害は、堅牢なフェンスを築けば防げるという。ただ、助走なしで2メートル近く、助走すれば、それ以上の高さを飛び越えることができるというから、シカも油断ならない。

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