憧れの田舎暮らしで起きた「想定外」の非常事態 自宅農園で自給自足生活と張り切っていたら
食べるものは広い土地で、自分で育てたい――。神奈川県から引っ越し、三重県の山間地域を舞台にした念願の移住生活。ところが、山間部での農業の厳しい現実を知ることにもなった。毎夜、畑に忍び込むシカやハクビシン。田舎暮らしは、人間関係が煩わしいと言われたりするが、動物との関係もなかなか大変だ。自給自足的な生活を脅かす、住んでみてわかった獣害被害のとんでもない実態をお伝えしたい。
野菜と果物を根こそぎシカにやられる
津市中心部から自動車で約1時間の山間部にある集落に引っ越してきたのが今年初め。この地域は平地が少ないため、自家消費のための田畑が多い。どこも、金属製のフェンスやナイロン製の網で畑が囲われ、農作物を育てるためには獣害対策が必要なことがうかがえた。
筆者が購入した物件に付属する農地は約200坪で、小さな山林にはひのきが植わっていた。この山林も切り拓き、椎茸栽培用のホダ木や薪を将来的に確保しようと、クヌギの苗木50本を植えつけたほか、雑穀などの種もまいた。
農地は、高台に位置する自宅前に2段の段々畑状に長細く広がっており、高さ1〜1.5メートルの石垣で前の敷地と隔てられている。集落の人は「これだけの高さがあれば、シカは入ってこないのではないか」と話していた。そこで、入ってきそうな部分だけナイロン製の高さ約1.5メートルの柵を設置することに。こうした対策が奏功したのか、5月ぐらいまでは目立った被害もなく、順調にカブや人参、大根などが収穫できていた。
ところが、サクランボやブドウ、プルーンの若葉が盛んに茂り始めた6月に様相は一変する。こうした果物は、シカの大好物と見えて、若葉を食べられてしまう食害が発生。しばらく姿を見せなかったが、1カ月近くして新芽が再び生えて出そろった頃、再び侵入された。足跡からシカが寝静まった深夜から未明にかけて入り込んだことがわかった。
この時点では果樹などに被害が限定されていたため、育てる作物の種類を選べば、獣害を何とかかわせるのではないかと見ていた。食べる以上の野菜が食卓に供給されていたため、少しぐらいは動物と分かち合ってもいいとも考えていた。
しかしすぐに、この判断が甘かったことを思い知らされる。「ビールと枝豆」を楽しみにまいた茶豆や黒豆など在来大豆の数々。ある日、すくすくと成長して開花を待つばかりとなっていた株の葉がなくなっていた。
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