「くるり」を生んだライブハウスが直面する危機 「磔磔」が歩んだ歴史を映像化することの意味

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いろいろなことがままならない状況の中、われわれは考えた。まだ制作途中で足りないパーツはたくさんあるものの、この『SWEET HOME TAKUTAKU』に収められた磔磔への、ライブへの、人間たちが生の音楽で心を通わせるということへの思いを、どうにかして知らせることはできないだろうか。

磔磔のステージ(撮影:西岡浩記)

もしかしたら、今求められている作品とは、この窮地をどういう作戦でライブハウスが切り抜けて行くのか、そのノウハウやヒントを伝えるものなのかもしれない。

しかし、それよりも大切なのは、この映像に刻まれた人々の思いやライブの熱さをできるかぎりストレートに伝えることではないだろうか。

ここに映し出された光景が、残念ながらいつかとても懐かしい、現実にはありえないものになってしまったとしても、かつてあった希望の光を消してしまいたくない。遠い未来を生きている子どもたちに見てほしい「お手本のようなライブハウス」(ミュージシャン・中川敬)の姿を残したい。

ミュージシャンにとって磔磔とは何か

磔磔のためにコメントをしてくれたミュージシャンや関係者は番組に登場してくれただけでも数十人を超す。

「木造のライブハウスなんて東京ではもう作れない」と感嘆する細野晴臣、「大きなギターの中にいるよう」と独特の音響を表現した友部正人、「磔磔はいちばんのライブハウス」と公言した故・遠藤ミチロウ、そして「たとえ磔磔に出られなくなっても水島さんには会いに来る」と水島への敬意を隠さない増子直純(怒髪天)など、ジャンルも世代も超えたミュージシャンたちが、言葉を惜しまず磔磔への愛を表現している。

磔磔の館内には名物である出演者看板が並ぶ(撮影:西岡浩記)

『SWEET HOME TAKUTAKU』のナレーションを務めているキセルの辻村友晴も、少年時代から磔磔で大事な時間を体験し、自分たちの音楽にとっても原点として、このハコを愛し続けている。

そして、今回のテレビ特別編集版で、オープニングとエンディングのナレーションを務めたのが小泉今日子。番組をいち早く見た感想をこう語ってくれた。

「磔磔というライブハウスには、皆さんの汗とか涙とか、音とか匂いとか、染みついているんだろうなということが映像を通してすごく伝わってきたことと、ライブハウスの歴史はイコール音楽の歴史でもあり、その土地の文化の歴史でもあるんだなということもすごく感じられた。京都のライブハウスのお話だけど、自分の青春もよみがえってきて、途中から体を動かさずにはいられないような感じになりました」

磔磔の木製のドアをあけて見える世界は、懐かしいライブの光景であるだけでなく、未来に伝えるべき大切な記憶でもある。(敬称略)

松永 良平 音楽ライター/リズム&ペンシル
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