同社は5月、昨年開業した大型商業施設「サンエーパルコシティ」と、「イオン北谷店」内にあった2店舗の閉店を決めた。いずれも、製造と卸売中心の事業から、安里社長が就任後に挑んだ初めての直営店舗事業の看板店。
「沖縄のスイーツをカッコよく」をテーマに、黒と紫、ピンクを基調にした「Sweet DeviL(スイートデビル)」の店名で、ケーキやギフト商品を豊富にそろえた。定番の沖縄土産のイメージを覆す独自の世界観を、商品と空間デザインで表現した新たな試みだった。
ナンポーが直営事業に乗り出した背景には、右肩上がりの観光市場を目当てに沖縄に進出してくる県外の老舗、有名菓子ブランドメーカーの存在があった。
2015年以降、高級洋菓子「アンテノール」のエーデルワイス(本社・兵庫県神戸市)や、カステラ「黒船」の長崎堂(大阪市)など大手百貨店の常連ブランドが現地法人を構え、沖縄の素材を生かした土産商品を開発している。質の向上と、単価の引き上げにつながり、沖縄の土産菓子市場に少なからぬ変化をもたらした。
初進出ブランドの受け皿となる空港の新ターミナルや商業施設の開業も相次ぎ、限られた商圏で客を引きつけるための競争は熾烈さを増していた。安里社長は「いくら沖縄の素材にこだわった商品を作っても、需要がどんどん目減りしていく感覚があった」と打ち明ける。
県外生産が7割の「沖縄土産」
沖縄の土産菓子市場では、パッケージこそ沖縄風だが、県外で生産されたものが7割を占めると言われる。中小零細企業が多く、食品の殺菌や充填などの大部分の工程を県外に製造委託せざるをえない。商品開発や製造技術の面でも、県外企業の力量に及ばないといった背景がある。観光客が落とす消費額を域内で循環させるためにも、地場企業による製造業の基盤強化が求められてきた。
一方、ナンポーは沖縄の製造業のこうした課題を熟知したうえで、役割を意識しながら自前で設備の拡充を推し進めてきた。厳しい検査基準があるというコンビニ最大手セブン−イレブン・ジャパンの沖縄進出では、品質管理をさらに強化する動機づけにもなった。
そんな中、沖縄の食品製造最大手のオキコ(本社・中頭郡西原町)と合弁会社を設立する形で進出したエーデルワイスの事業展開は、沖縄の製造業のあり方に1つの示唆を与えた。
国内外で技術を磨いた菓子職人による開発力を強みに、観光客にとどまらず、別ブランドで県民向けの生菓子なども開発。さらに、コンビニスイーツのOEM(製造受託)を請け負い、現地製造を安定的に運営できる生産軸を確立してきた。
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