印刷会社を母体とする企業の成り立ちも、安里社長の業務経験も、土産菓子メーカーとしては異色だ。印刷会社に在職中は、印刷機器のデジタル化という大きな変化の波を目の当たりにした。デザインや素材の掛け合わせで商品展開の幅が広がった感覚は、お菓子や店舗の開発にも生かされ、直営店舗事業にトライする自信にもなった。
そもそも、創業者である正男氏が5人姉妹の娘の3番目、睦子氏を後継者に選んだのは、自由な性格で、つねに意外な切り口の提案で社内を活気づけてきた睦子氏への期待があった。「会社を守るのではなく、変えていってほしい」という望みを託した。
沖縄の本土復帰後に創業した県内企業の多くが今、事業承継のタイミングを迎えている。好調な観光需要への対応に追われて、社会のデジタル化や消費者の嗜好の変化などに十分に対応してこなかったツケと合わせ、次世代に事業を引き継げない課題に直面している。
「ちんすこうショコラ」のヒット商品などがある創業45年の菓子メーカー、ファッションキャンディー(沖縄県宜野湾市)が今年、全株式を地元の不動産会社に8000万円で売却したことは象徴的だった。新規出店の増加に伴う赤字経営や、後継者の不在などが要因になったという。
企業連携で地域ブランドを守る
新型コロナによる今回の経済危機は、行動制限に伴う停滞であり、決して観光地としての沖縄の魅力が失われたわけではない。感染の収束時期を狙って、国内外でM&A市場が活発化するとの見方もある。沖縄を代表する企業オリオンビール(本社・豊見城市)が昨年、外資系企業などに買収されたように、地域に根差したブランド価値が守られるほどに、企業買収のリスクが高まる可能性もある。
デパートリウボウや沖縄ファミリーマートを展開するリウボウホールディングス(本社・那覇市)の糸数剛一会長は、「小売りや流通企業も製造業に積極的に関与していく流れがあり、業界の垣根はもっとあいまいになっていく。観光に依存しすぎない独自の顧客層と販売チャネルを開拓するためにも、さまざまな企業とのパートナーシップを検討していく必要がある」とみる。
急激な市場変化の下において、農作物など1次産業の成長を絡めた地域経済の持続的な発展は、企業単独で守られるものではない。事業承継の難題をクリアしたナンポーの今後の事業展開は、沖縄で生まれ育った土産菓子メーカーの存続のあり方を占う試金石となる。企業同士の連携や協力体制をいかに構築していくかを含め、“復帰っ子世代”による「第2創業」のステージに入ったナンポーの役割は、コロナ後の沖縄で一層重要なものになる。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら