「授業では、国連で扱っているミレニアム開発目標(MDGs)について話すことが多いのですが、貧困、保健といった個別のテーマの内容を英語で聞いてぶつ切りの知識を増やすだけでは意味がありません。
現在の国際秩序は、第二次世界大戦終了後にできた国連憲章をベースにできていて、国連憲章に書かれていることが普遍的価値とされているのですが、そのことを知っている人がとても少ない。外交や開発支援など、国際的な舞台で活躍したいのであれば、まずはこうした大きな枠組みを学んだ上で個別のテーマを捉え、国際社会や市民社会がどのような価値観をベースに枠組みづくりや取り組みを進めてきたかを体系的に理解する必要があるのです」
母国語でいいので、まずは大きな概念―ここで言うところでは、第二次大戦終了後からMDGsに至るまで流れとその意味するところ―を理解することがまず大切、と大崎さんは言う。その上で、物事を体系的に理解するための訓練としてIBは格好のツールであると説く。
「具体的には、IBは時間軸と空間軸を意識した学びだということです。時間軸というのは、歴史的な文脈、哲学や理念がどのような文脈で発展してきたかを知ること。そこに空間軸が加わり、文化や歴史の多様性を意識しながら、今起きていることをどう捉えるかを考えさせ、教師やクラスメートとの対話を通じて学びを蓄積し、知識を消化していくんですね。
ここが日本の中等・高等教育が抱える大きな課題だと思います。この課題の克服策としてIBを捉えるのであれば意味がありますが、単に英語力とプレゼン力向上の手段と捉えるだけではもったいないですね」
IB教育の目的は「地域で普通に暮らす」こと?
国際社会で活躍するために必要な素地が凝縮されている感のあるIB教育。とはいえ、日本語カリキュラムが始まったとしても、その内容の専門性に見合って学費が高額になりがちなこともあって、「うちの子には受けさせたくてもできない」と考える向きもあるかもしれない。でも、だからと言ってあきらめるには及ばない。IB教育の「3つの精神」を親が理解しながら子どもと接すれば、高等教育や海外留学で得られるものが多くなるはずだと大崎さんは話す。
「IBの3つの精神というのは、探究を通じて自己肯定感を育む『自我の確立』、歴史や文化を通じた『多様性の受容』、国や文化背景が違っても人間の暮らしの営みは似ているという『普遍性への気づき』です。この3つをベースに、知識をどう社会に還元し、どのように社会貢献していけばいいかを追求するのがIBの精神で、そのための論理的思考力や言語化の仕方を身につけるのがIB教育なのだと思うのです」
「自分を持って他者と共存しながら社会に貢献する。非常に高度なリーダー教育手法がIBですが、IBの精神をどう身につければいいかを考えれば考えるほど、スタートラインは『普通に地域で生活していくこと』ではないかと思えてなりません。
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