8割おじさん・西浦教授が語る「コロナ新事実」

アメリカが感染拡大の制御を止める可能性

――なぜ、これまでの計算結果と異なるのでしょうか。

その理由は、異質性というものに関係する。現実の世界では、一人ひとりは同質的に振る舞わない。例えば、接触行動は子ども、大人、高齢者といったグループによって異なる。60%という集団免疫に必要な値は、すべての人が同じように振る舞うという仮定を置いて計算されていた。

これに対して今、それの拡張版として異質性の要素を導入した集団免疫度の計算手法が欧州を中心にやっと本格化してきた。異質性の要素としては、年齢構造に加え、家庭やコミュニティーなどの社会構造の違い、クラスター(感染者集団)のような感染の起きやすい場所とそうでない場所の違いなどが挙げられる。

従来から知られてきたこととしては、それによって得られる累積罹患率の数値は、同質性を仮定した一般的な計算より小さくなる。

新型コロナの集団免疫率は20~40%か

最近わかったのは、累積罹患率だけでなく、集団人口の何%が感染すれば、新規感染が自然に減少に転じるかという比率(集団免疫率)についても、従来の計算結果より小さくなること。ようやく異質性を取り入れた計算手法が真剣に検討され始めている。

――経済学の数理モデルでも、経済主体はみんな一律に自己利益の最大化を目指し、将来の事象も確率的に正確に予測できるという同質性が仮定されており、それの弊害がずっと指摘されています。興味深い一致ですね。数理疫学では、どのように異質性を取り入れるのですか?

1つの研究では、われわれがクラスター対策で注目してきた、1人の感染者が生み出す2次感染者数にばらつきがあるという話に関係する。新型コロナでは、ほとんどの感染者は誰にもうつしていないが、特定の屋内環境で「3密」の条件がそろった場所において1人がたくさんの2次感染者を生み出すということがある。

そのことを考慮すると、集団免疫率が一般的な数値より低くなることが最近示された。具体的には従来の式に頼らずに定義を変えて、1回目の流行終了後、2回目の流行を起こさないときの閾値として集団免疫率を計算している。すると、1人当たりが生み出す2次感染者のばらつきが大きい場合は、基本再生産数2.5では、集団免疫率は60%でなく、20~40%くらいで済むことになる。これが4月27日付のイギリスの研究論文の内容だ。

また、年齢別の異質性を考慮した5月6日付の別の研究論文もある。こちらも集団免疫率は40%程度(基本再生産数2.5のとき)で済むという内容だ。こうした研究結果は、従来のように「人口の6割が感染しないと感染拡大は収まらない」と想定しなくてもよいことを意味する。これはかなり重要なことだ。

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