8割おじさん・西浦教授が語る「コロナ新事実」 アメリカが感染拡大の制御を止める可能性

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――ただ、20~40%といっても高い数値ですね。日本では、本当の感染者数は、PCR検査の陽性者数である確定感染者数の10倍以上いると言われますが、それでも20~40%よりは全然少ないでしょう。集団免疫率の推定値が下がったとしても、対策をせずに自然に集団免疫に達することに任せるという方向に転換するのは難しいのではないですか。

そのとおりだ。日本は現在、大規模になりかけた流行をいったん制御しつつある段階だが、抗体検査などの結果を踏まえると、おそらく全人口の1%に至るかそうでない程度のみが感染し免疫を持っている状態だろう。逆に言うと、国民の99%以上はまだ感受性を持ち、感染する可能性があるということだ。

しかし、集団免疫率の推定値が下がったということは、いつかどこかの国が戦略を大きく変えてしまう可能性があることを意味する。例えば、感染拡大の制御がうまくいっておらず、死者が多数出ていて、一方で経済の再開の要望が強い国ではありうる戦略転換だ。

具体的には、欧米で経済再開の動きが進むが、とくにアメリカではどんどんそちらに向かって政策が進んでいる。いずれ集団免疫を自然に獲得する方向に舵を切る可能性がある。

アメリカが感染制御を止めた場合のリスク

――もしそうなると、世界の新型コロナ対策の流れは変わりかねません。

ここからは数理疫学の専門分野を離れてしまうが、仮にアメリカが感染拡大の制御を諦めれば、経済を回すために他国にも「門戸を開けなさい」と迫るのではないだろうか。そうなれば、日本に影響がないはずはない。

もしそうなれば、日本国内でせっかく感染拡大を制御できていても、海外との人や物の移動が再スタートとなり、感染再拡大に火がつきかねない。

感受性人口がまだまだ膨大にいる日本と、感染者をたくさん持つ国が1週間に何便ものフライトでつながってしまうわけだから。実際に6月からこの動きはある程度始まりそうで、アメリカのエアラインがカリフォルニア州と日本を結ぶ週3便を再開するという話が出ている。

集団免疫率が従来の想定の半分強で済むことによって、海外の国の戦略が変わってしまい、日本独自の対策だけでは話が済まなくなる可能性がある。人の移動を遮断できないと、集団人口単位の政策は効果を失うのが、感染症対策の特徴だ。国際協調のあり方を含めて、この問題について多くの人に考えてもらいたいと思っている。

――感染者数の少なさという日本の優位性が逆に不利な点になりかねないですね。万一、日本が門戸を開かなければならないとしたら、空港などでの検疫を強化するくらいしか手はないのでしょうか。

ときに誤解も拡散されるオンラインニュースの時代。解説部コラムニスト7人がそれぞれの専門性を武器に事実やデータを掘り下げてわかりやすく解説する、東洋経済のブリーフィングサイト。画像をクリックするとサイトにジャンプします

私の関係する厚生労働省にできるのは、検疫法に基づく空港や海港での検疫(水際対策)だけだ。入国者の検査を行ったり、検査陽性者の入院を行ったり、対象者数が少ない場合は検査陰性者の14日間の停留を行ったりすることができる。

【2020年5月27日15時00分追記】初出時、検査陽性者の記述に誤りがありましたので上記のように修正しました。

それ以外では、入国管理法は法務省の管轄、国際移動そのほかの方針は官邸主導の国家安全保障会議で決められている。新型コロナ対策について科学者のリスク評価が官邸などの意思決定に反映されるべきだと思うが、国際移動に関してはまだそれが達成していない。

これまでは、ロックダウン(都市封鎖)や接触8割削減などの公衆衛生上の対策と経済への打撃という単純な2項対立が続いていたが、今後はそこに国際政治的な力学も入ってきて、新型コロナ再流行の落とし穴になるかもしれない。

野村 明弘 東洋経済 解説部コラムニスト

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のむら あきひろ / Akihiro Nomura

編集局解説部長。日本経済や財政・年金・社会保障、金融政策を中心に担当。業界担当記者としては、通信・ITや自動車、金融などの担当を歴任。経済学や道徳哲学の勉強が好きで、イギリスのケンブリッジ経済学派を中心に古典を読みあさってきた。『週刊東洋経済』編集部時代には「行動経済学」「不確実性の経済学」「ピケティ完全理解」などの特集を執筆した。

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