しかし、新型コロナの感染爆発は前提を大きく変えた。春節(旧正月)直前の1月23日に始まった武漢の封鎖など、一時期は新型コロナ対策のために多くの分野で経済活動がストップしたためだ。
ここで問題になったのは「5.6%」という数字だった。中国共産党は小康社会実現のため、2020年のGDPを2010年の2倍にするという公約を掲げてきた。計算上、その達成には今年の成長率を5.6%以上にする必要があった。
3月16日には1~2月の経済データが発表されたが、工業生産が前年同月比13.5%減、消費動向を示す「社会消費品小売総額」が同20.5%減、固定資産投資が24.5%減といった具合で、どれも統計開始以来最悪の数字だった。
このときの発表会見で国家統計局のスポークスマンは「今年の目標を達成する自信は変わらない」と述べた。これは「今年の成長率目標は5.6%を超える水準で考えている」と示唆するものと受け取られた。だが、この時点ではかなり無理のある数字だった。
中央銀行内部から「待った」
3月末になって批判に火をつけたのは、中央銀行である中国人民銀行で貨幣政策委員を務めるエコノミストの馬駿氏だった。馬氏は今年の経済成長率は1%台まで下がるかもしれないとしたうえで、「非現実的なGDP成長率目標を確定すれば、地方政府はインフラ投資に走る。しかし、こうした投資は雇用問題や失業者への手当てには何の助けにもならない」と警告した。
リーマンショック後に行われた総額4兆元(現在のレートで57兆円)の景気刺激策が地方政府に負債の山を残したことを考えれば、大規模な財政出動はあまりにリスクの多い政策だ。
おそらく、それまでに判明した経済データがあまりに悪かったからだろうか、馬氏などの市場原理重視派が論争に勝利したようだ。4月17日に発表された1~3月の経済成長率は前年同期比6.8%のマイナス。このときの記者会見では、国家統計局のスポークスマンは「今年の目標」には触れなかった。海外の記者から「足元の経済悪化は、GDP倍増目標に影響しないのか」と聞かれても、答えは貧困撲滅など「小康社会」に関する抽象論に終始した。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら