コロナだけでない中国「成長率目標なし」の内幕 7年越しの大改革は米国へのシグナルなのか

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全人代会場には3000人近い代表が密集。習主席らトップ層以外はマスク着用(CCTVのホームページより)

また、同じ日に開かれた党中央政治局会議の発表文からも、それまで使われていた「年間経済社会発展目標任務の達成に努める」という言葉が消えた。代わりに増えたのは貧困撲滅に関するアピールだ。李首相も全人代での演説で「農村貧困人口はすべて貧困から脱却させ、すべての貧困県からそのレッテルを外す」と述べている。「小康社会」の目標をGDPの数値から国民生活の改善へとシフトさせたのだ。

直前の4月14日に発表されたIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しでは、中国の2020年の成長率予想は1.2%とされた。さすがに、この状況で5%台の目標を出すリスクは取れなかっただろう。

新型コロナの流行後に人民代表大会が開かれた省では明確な成長目標ではなく、相対的な表現を採用した。5月9日に会議が始まった四川省では今年の成長率目標を「全国平均を2ポイント上回る」とし、同10日開幕の雲南省では「全国平均より高く」としている。まだ「成長率目標の廃止」という段階には至っていない様子がうかがえる。

コロナ対策に大規模な財政出動

政府活動報告で李首相は「現在、新型コロナの流行はまだ終わっておらず、発展の任務は非常に困難である」と述べた。全人代の会場でも、3000人に迫る代表団は全国で200人ほどしかいない共産党中央委員を含め、マスクをつけて出席。25人いる中央政治局員と、彼らと同格の指導層だけがマスクなしでひな壇の前列に並んだ。

政府活動報告ではコロナ対策に充てるための財政措置も発表された。
国内総生産(GDP)に対する財政赤字の比率は「3.6%以上」で、2019年の2.8%より大きく引き上げられた。財政赤字の増加額は1兆元(現在の1元は約15円)を見込む。さらに財政赤字に算入されない「特別国債」も13年ぶりに1兆元発行する。「これら2兆元は市や県、企業の現場に行き渡るようにする」(李首相)。また地方政府のインフラ債券(専項債)の発行額も3兆7500億元と、昨年より1兆6000億元増やした。

これらの政策は大規模ではあるが、おおむね事前のアナウンスに沿ったもので市場の想定内だ。リーマン当時に比べ、中国経済の規模は3倍近くになっている。4兆元政策の再演は現実には難しい。中国政府は実情を踏まえた政策を選んだということだろう。

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