緻密ダイヤを制御、新幹線総合指令所の秘密 東海道新幹線の運行システムは進化を続けている

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ダイヤグラムの見方を教えていただいた

元輸送指令(旅客担当)で、現在は新幹線鉄道事業本部の運輸営業部輸送課にご所属の加藤芳伸さんによると、自動起床装置は「嫌なモノですよ」とのこと。「膨らむ前にモーターの音がするので、たいていそれで起きました」とも。

運転士になるには国家試験をパスする必要があるが、指令になるには社内での適性検査に合格すればいいそうだ。ただし、一度合格すればずっと指令でいられるかというと、そうではない。3年に一度、検査を受け直す。

ひとりの指令が受話器を上げたので耳をそばだてる。電話の先は、走行中の新幹線の運転士のようだ。天候の報告を依頼している。総合表示盤にもモニターにも数字が並び、インジケーターが光っている。しかし、カメラの映像はほとんどない。運転士や車掌、各駅の駅員の目が、総合司令所の目なのである。指令員も運転士や車掌など現場を経験しているため、指令所にいながら、現場で起こっていることがイメージできるという。

静かだった部屋が少しだけざわついた。沿線で火災が発生したようである。こういった情報は運転士からもたらされる。「野焼き うっすら白い煙 人なし」などと書かれたA4サイズくらいの白板が、表示盤の彦根の手前あたりに貼られる。なんと沿線の農作業の火勢まで、運転士は確認しながら運行しているのだ。幸いにして、運行に特に影響はなさそうだ。

運行に影響といえば思い出されるのは2月8日と14日である。東京は記録的な大雪となり、東海道新幹線もダイヤに乱れが生じた。特に14日のことは忘れられない。なぜなら虎ノ門ヒルズの工事現場で寒さに震えていたからだ。

「その日の担当が、今日の指令長ですよ」。加藤さんがY指令長を紹介してくれる。この指令長氏は、現場の大ボスである。6つの指令には1勤務ごとにそれぞれ指令長がいるが、なかでも全体をまとめるのがY指令長のように泊まり勤務を行う輸送指令長なのだ。ボクがブルース・ウィリスの敵役なら、真っ先に狙わなくてはならない存在だ。Y指令長は視線を感じたのか、にこっと笑ってくれた。指令長は優しい。

あの雪の日は両日とも担当で、隣にいるK指令長とともに、食事も取れなかったという。

壁にはその雪の日のダイヤグラムが貼ってある。いわゆるスジである。東京と静岡の間あたりが、線でみっちりと埋められている。普段の運行も神業なのに、これはなんと表現するべきか。松本清張も西村京太郎も脱帽に違いない。

運行に影響といえば忘れてはならないのが、2011年3月11日だ。あのときボクは、京都に向かう新幹線の中にいた。緊急停止し、何だろうとiPhoneでTwitterを見て、大きな地震があったことを知った。

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